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小さなオフィスデザイン

 勤めている会社のオフィスは、一年ほど前に移転したこともあり、すべてが新品のきれいな空間を誇っている。のだけど、いつもなんだか物足りないと感じていた。
 
 何が足りないんだろう?休憩所もあるし、ベランダからは緑豊かな隣の公園が望めるし、更衣室も用意されてるのに……。デスク近くの窓からの見晴らしだって悪くない。それほど高くないとはいえビルの最上階だ。
 休み場に本棚がないのが悪いんだろうか。確かに会社によってはリラックスルームに勉強用の書籍を置いてる。就活のときに見た。
 
 それで頭の中で本棚を足してみたけど、やっぱりオフィスはものさびしいままだった。
 うーん。なんだ、何が足りないんだ。
 モヤモヤはしたものの、自分にオフィスデザインの決定権があるわけでもないので問いは放置された。
 
 ある日廊下を歩いていると、ふと壁が真っ白なのに気づく。白に不満があるわけじゃない。木目の壁なら雰囲気があっていいとか、そういうことじゃない。そうじゃなくて、壁に何もないのだ。

 せいぜい連絡事項の貼り紙か、社訓らしきものを書いた額入りの書。そうだこれだ、と思う。ここに絵が掛かっていたり、観葉植物が置かれていたりしたら、きっともっと温かい雰囲気になる。なんていうか、文化が足りてないんだ。
 
 それっぽい物がある場所と言えば、応接室くらいしか思い浮かばない。なんか可愛い感じの陶器の皿と、「応接間にはこういうのあるよね」という最大公約数みたいな壺がある。恐らくは「こっちが上座だよ」と座席の上下関係をアピールするための美術品。

 つまり、普段社員の目に触れることはない。たぶんお客様もそれを見ない。だって自分の背後にあるから。入室する際にちらっと見るだろうけど、いつ来ても変わらない皿と壺だ。季節も何もない。
 
 そっか、絵画や植物があるといいなあ、できたら絵がいい。どんなのがいいだろう、建築業界である以上はやはり工事現場の絵がいいだろうか。あるのかね、そんなもの……。
 あったところで、会社に向かって「絵を買ってください」ってわけにもいかないだろう。絵って高いし。
 
 廊下の壁を眺めながら歩いたあとデスクに戻り、休憩時間になった。諦めが悪いので、値段が高いだけならレンタルすれば安上がりじゃないか……と考え、オフィス用の絵画レンタルがないか探す。

 最近はなんでも(服でもブランドバッグでも)借りられる時代だから、絵画もきっとあるはずと検索をかけたらすぐ見つかった。オフィス用はもちろん個人用まで。

 個人用?

 自宅用に絵を借りられるサービスがあった。月額2000円から。これなら、目が飛び出るほど高いってわけじゃない。美術館にあるような値の張る絵画は無理でも、いま同じ時代に活躍している画家たちの絵を飾れる。

 オフィスのことはすっかり忘れて、しばらくサイトに見入っていた。そのうち借りるかもしれない。
 
 会社空間に話を戻す。オフィスデザインを専門にしている人たちというのがいて(そういう職業があることもよく知らなかった)、そのサイトを見てみた。いくつかのオフィス施工の例が挙がっている。京都の会社の写真が出てきた。

株式会社WMによる、福田金属箔粉工業株式会社のオフィスデザイン
画像引用元:https://workplace-m.com/cms/case/2104/

 和風ですっきりしていて、ついでに窓が大きいから空に浮いているのかのようで、こんなオフィスもあるのねと眺める。会議室なんだと思うけど、陽当たりさえキツくなければ開放的な雰囲気で話し合いができそう。

 なるほど絵でなくたって、和風デザインの壁紙なんかでも、弊社オフィスの雰囲気は結構変わるかもしれない。会社にやってもらうのは無理でも、デスク周りだけなら自力でなんとかならないか……。

 最悪自分で描いたイラストでも貼るか、と思いながら帰宅した。8月だから蛍か花火でも描こうかな……。


本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。