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お金のためって言うけど

 風俗業に従事する女性は「お金のために嫌々やっている」と言う人が多い。望んでしている仕事じゃないし、特別すきなわけでもない。ただそれでしかお金を稼げない、と。

 それに対するメジャーな反論に「お金のために働いているのは、みんな同じだよ」がある。
 
 誰だって自分の能力以上の仕事はできないし、たいていはお金のために働いている。風俗だろうがなんだろうが、それで生計を立てることを自分で選んだんでしょ、なんで性風俗の世界だけ「嫌々やってるかわいそうな私」像を訴える人が多いわけ?そんな反論。
 
 筋の通った理屈だと思う。ただ一方で「昼の仕事に就こうとしても就けない人」の存在が見過ごされてるな……とも思う。いわゆる「普通の」職に就こうにも、そのための最低限の能力が欠落している人は実際いて、それで風俗に流れていたりする。
 
 たとえば「書類の漢字が読めない」とか。
 「スーパーで安売りされていたものをとりあえず買って冷蔵庫に詰めるものの、それを料理できない(だから腐っていく)」とか。簡単な損得の計算ができない人もいる。書いていて辛い。
 
 彼女たちは、本当なら生活保護を受けてもいい立場だったり、なにかしらの福祉支援を受けるべき人たちだったりする。でも「役所に行っても書類はぜんぜん読めないし、職員に辛く当たられただけで帰ってきた」とか、現実なかなか支援が届かない。
 
 そういう人にとって、風俗の世界はわかりやすい。男の人の相手をしていればよくて、事務能力を問われることもないし、お給料も入る。もちろん企業のような福利厚生はないものの、とりあえず生きていくに足る。
 
 もちろんなんのスキルも身に着かないし、年齢と共に客は減っていく。中には高齢になっても続ける人もいるが、基本的には若いうちが稼ぎ時だ。そして、年齢に応じた売り方を考えて戦略を練られるのは、それだけの知性と適応力のある人だけ。
 
 そのあたりの切り替えができないまま「誰かいい人と結婚できれば救われる」という神話を頼りに、年齢を重ねる人もいる。それでもいままで売るものがあっただけマシだろうか……。
 
 こういう暮らしをしている人に「自分で選んだ境遇だよね」とか「お金のためにやってるのはみんな同じだよ」と言えるか……と訊かれると答えに詰まる。昼の仕事にも就ける人がやっているならまだしも、こういうパターンはわけが違う。
 
 支援や福祉につながるべきなのだ、本当なら。でも届かない。助ける側のリソースも限られている。とりあえず健康でどうにか生きてるんだったら、自分の生活くらい自分でどうにかしてよ……と投げ出し、もっとわかりやすく「かわいそう」な人のところに行く。
 
 わかりやすくかわいそうな人。というより、ちょっと助ければすぐ浮き上がれそうな人。支援しがいのある人。それなりに頭が良くて説明が理解できて、こちらの好意と親切をちゃんと受け取って感謝してくれそうな。支援したらした側が満足できそうな人。
 
 そういえば、目の前のホームレスを見殺しにして海外ボランティアに行く人なんてたくさんいるよね。べつに非難しているわけじゃない。そうだねってだけだ。
 
 話を戻す。風俗業を「お金のためにやってる」なら、他の人と大差ないだろ……という意見、まあわかるのだけど、なにかもっとそれ以前のひとっているよな……と思う。昼の仕事に就くことが、夢物語のように遠い世界になってしまっている人。
 
 自分にできることは何もないように見える。あるとしたら、自分は昼働く人間でいられるのだから、もっとその境遇を大事にしようと思うくらい。文章が読めて書けて、メールが打てて多少のパソコンスキルがあって、みたいなの、あたり前じゃないんだよな。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。