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博士課程で人文社会科学を学ぶ学生がUXリサーチャーのインターンに参加してみた

こんにちは。FintechデザインチームでUXリサーチャーとしてインターンをしていたhirokiiです。この記事では、私がインターン期間中に取り組んだことと、インターンを通して感じたこと、学んだことをまとめています。


想定読者

この記事は、就職先を探している学生、特にUXリサーチャーという職種に興味のある方や、アカデミアの外で人文社会科学系の研究経験や専門性を生かせる仕事に就きたいと考えている方を読者として想定しています。

UXリサーチャーというポジションはあまり一般的ではなく、新卒採用をしている企業もほとんどないので、学生のみなさんにとっては縁遠い職種かもしれません。ただ、人の行動や考え方に興味がある方や、社会調査(特に定性的な研究アプローチ)を専門としている方にとってはおもしろい職種だと思うので、ご自身のキャリアを考える上でこの記事が少しでも参考になれば幸いです。

なお、以上のような記事の狙いから、この記事は他のインターン体験記と比べると、よりUXリサーチャーという特定の職種に特化した内容になっています。ですので、メルカリのインターン全体に共通する内容、例えばインターン生の働き方や参加イベントに興味がある方には、物足りない内容になっているかもしれません。そういった方は、Mercari Analytics Blogメルカリエンジニアリングブログに過去のインターン参加者の記事がたくさんあるので、そちらをいくつか読んでみることをお勧めします。

自己紹介

私は現在、都内の大学院の博士課程でソーシャルメディアにおける政治的なコミュニケーションについて研究しています。

ソーシャルメディアの研究というと、プログラミングや統計学、定量的な分析スキルを駆使した研究を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、私自身はフィールドワークや人類学の考え方を参考にすることが多く、どちらかというと定性的な分析を得意としています。いわゆる「文系」と「理系」という分け方をするのであれば、私の専門は「文系」に分類される社会学であり、私はその中でも定性的で探索的な調査・分析の経験を積んできました。

インターン参加の経緯

博士課程修了後のキャリアを考える中で、このまま大学で研究を続けるのではなく、民間の企業で自分のスキルや経験を生かせる仕事をしたいと考えるようになりました。しかし、私のように「文系」で定性的な研究を専門とする場合、自分の研究活動が強みとなるような職種を見つけるのは容易ではありません。

キャリアに悩みながらも色々と情報収集をする中で、たまたま文化人類学や心理学などの学問的バックグラウンドが歓迎されるUXリサーチャーという職種があることを知り(参考までに、現在メルペイで募集しているUXリサーチャーのJob Descriptionはこちら)、興味を持つようになりました。

それからUXリサーチ関連の情報をフォローしたり、Research ConferenceというUXリサーチャーが参加するイベントを覗いてみたりしていました。ただ、UXリサーチャーというポジションの募集は(特に新卒の場合)ほぼなかったため、新卒でこの仕事につくのはあまり現実味がなく、いつかできたらいいなくらいに思っていました。

そんな中で、幸運にも今回のメルペイUXリサーチャーのインターン募集を見つけ、ほぼ即決でインターン選考に応募しました。もともとUXリサーチャーに興味があったことに加え、事業会社のリサーチ職を経験してみたいと思っていたこと、メルカリのカルチャーや働き方に魅力を感じたことなども、応募の決め手でした。

そして無事選考を通過して、2023年12月はじめから2024年2月中旬までの2ヶ月半、インターンに参加することになりました。

UXリサーチャーとは

ここまで何の説明もなくUXリサーチャーという言葉を繰り返し使ってきましたが、そもそもUXリサーチについてよく知らないという方も多いと思います。そこでここでは、メルペイのUXリサーチャーが一般向けにUXリサーチの入門書(『はじめてのUXリサーチ――ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために』)を書かれているので、そちらを参考にしながらUXリサーチについてごく簡単に説明します。

まずUXリサーチの「UX」ですが、これはUser Experienceの略で、「プロダクトを使う前、使っているとき、使った後に起きる人の知覚や反応のこと」を指します。その上で、UXリサーチは「様々な場面で起きる人の知覚や反応(UX)について調べて明らかにすること」と定義されています。(Chapter1「UXリサーチとは」より)

データアナリストのような他の調査分析系の職種と比較すると、UXリサーチャーは利用ログといったお客さまの行動データだけではわからないこと(行動の背後にある動機や考え方など)を知りたい場合や、不確定要素が多い中で課題を発見したり仮説を構築したりしたい場合に必要とされることが多いと感じます。

ちなみにメルカリの組織構造の中で、UXリサーチャーはプロダクトデザイナーとともに、Designチームに所属しています。個人的に、AnalyticsチームではなくDesignチームの所属であるという点は興味深く感じました。他の会社だとデザイナーがUXリサーチをおこなうことが多いらしく、メルカリのように、デザイナーとは別にUXリサーチャーというポジションが設けられている方が珍しいみたいです。

主に取り組んだこと

ここからは、私がインターン期間中に主に取り組んだことを2つ紹介したいと思います。1つがBi-Weekly UXRで、もう1つが自主調査です。

Bi-Weekly UXR

インターンに参加して2-3週目に取り組んだのがBi-Weekly UXRです。Bi-Weekly UXRとは、メルペイで隔週水曜日におこなわれているUXリサーチのことで、持ち回りで毎回1人のUXリサーチャーが調査の設計から実査、報告まですべて担当します。ちょうど入社1週目の水曜日にBi-Weekly UXRがあったので、それを見学し、その次の回を(メンターの方のサポート付きではありますが)私がメインで担当することになりました。

準備
Bi-Weekly UXRでは、実査の1週間ほど前にPM・デザイナー・マーケターなどから広くリサーチしたい案件を募集し、その後、各案件の調査目的のすり合わせや、調査にご協力いただくお客さまのリクルーティングをおこないます。私はインターンに参加したばかりで、メルペイの内部で走っている施策やプロジェクトの内容を全く知らない状態だったので、各案件でリサーチが必要な背景や文脈をわかっておらず、情報のキャッチアップをするのがとても大変でした。各案件の担当者の方々に情報共有のミーティングを入れていただいたり、メンターの方との1on1で色々と教えていただいたりしながら、なんとか準備を進めていきました。

実査
実査の日には、1名90分のリサーチを計4名のお客さまに実施します。現在メルペイのリサーチは基本的にリモートで実施しているので、私も自宅からオンラインでお客さまにお話を伺いました。質問内容や時間配分などは事前に台本にまとめてリサーチに臨みますが、リサーチして初めてわかることや、お客さまごとに変えなければならないこともあり、リサーチをしながら臨機応変に内容を微調整する必要がありました。こうした臨機応変な対応に関しては、これまでのインタビュー調査の経験が生きた点もあったように思います。

報告
リサーチが終わったらすぐにレポートを作成する作業に入ります。案件ごとに調査からわかったことや自分なりの考察をまとめ、調査翌日には速報のレポートを全体に共有します。その後、できるだけ各案件の担当者の方と調査結果を共有するミーティングを入れていただき、改めて何がわかったか、具体的にどのような形で施策やプロジェクトにリサーチ結果を活用できそうかを話し合いました。UXリサーチの場合、調査結果には常に様々な解釈の余地が残されているため、その受け止め方や解釈の仕方には注意が必要です。そのため、調査結果から何が言えて何が言えないのか、施策やプロジェクトにどう活用できそうかについて、各案件の担当者とコミュニケーションを密にとりながら意識を合わせていくことも、UXリサーチャーの重要な役割だと感じました。

学び
Bi-Weekly UXRに取り組む中で感じたことは、事業会社のリサーチでは「やりたいこと」と「できること」に一定のギャップがあるため、限られたリソースの中で何をすべきか、常に優先順位をつけて取捨選択する作業が欠かせないということです。

もちろん、こうした作業は大学での研究にも存在します。ただBi-Weekly UXRの場合、やりたいことはたくさんある一方で、できることは限られているため(特に時間的な制約はシビアです)、両者のギャップが大学の研究よりも大きいと感じました。

例えば現在のBi-Weekly UXRでは、1回のリサーチに「これに関するリサーチお願いします!」という案件のエントリーが大体4つ以上あります。それに対してお客さま1人あたりの調査時間は90分と限られています。UXリサーチャーは1回のリサーチを有効活用するために、各案件のやるべきことに優先順位をつけ、時には「これは今回調査しなくていいかも」「これはBi-Weekly UXRとは切り分けて別途調査した方がいい」といった判断を下す必要があります。

こうした作業を素早く的確におこなうために、UXリサーチャーは調査スキルだけでなく、事業的な観点で有益な意思決定をするための知識や経験も持ち合わせている必要があると感じました。

自主調査

メルペイでは、PM・デザイナー・マーケターなどの主導でリサーチが立ち上がるBi-Weekly UXRとは別に、UXリサーチャー自身が問いを立ててゼロから調査を企画する自主調査もおこなわれています。Bi-Weekly UXRを担当して一連のUXリサーチの流れを経験したあと、インターン期間の後半はこの自主調査に取り組みました。

テーマ:「出品メインのお客さまにおけるメルカード定着プロセスの分析」
私の自主調査では、8名のお客さまにインタビュー調査を実施し、お客さまの普段のお買い物にメルペイ・メルカードの利用が定着していく過程で、どのような要因がその定着プロセスを促進/抑制しうるのかを分析しました。インタビュー調査における主な質問内容は、メルカードを持ち始めてから今に至るまでの利用経験、メルカードへの考え方、普段のお買い物におけるお支払い手段、収支の流れなどです。

当初の計画としては、メルカードを持ち始めてメルペイ・メルカードの利用が日常のお買い物に定着している人と、定着しなかった人の2つのグループにお客さまを分けて、両者の違いを分析する予定でした。

しかし、実際にメルカードの利用状況を伺ってみると、下の図のように利用フェーズに応じてもう少し細かくお客さまを分類できることがわかりました。最終的には<メルカード作成→最初数回のメルカード利用→メルカードの利用対象の拡大→メルカードのメインカード化>という4つのフェーズに局面を分けて、前のフェーズから次のフェーズへと移行する/移行しない要因を探索的に明らかにすることを試みました。

分析結果としてわかったことは様々ありますが、1つ例を挙げるとすれば、利用フェーズに応じてメルペイ・メルカードの認識やそれに求める価値・便益が変わっているということが挙げられます。お客さまの利用フェーズに合っていない価値や便益を訴求しても、意識されなかったり、むしろお客さまの情報処理に負荷をかけてしまって、メルペイ・メルカードの利用から遠ざかる要因になっている可能性も示唆されました。このような分析結果から、適切なタイミングで適切な情報や選択肢をお客さまに提示できるように、利用フェーズごとに体験を設計する必要があるということを提案しました。

学び
自主調査を一通りやってみて、個人的にはBi-Weekly UXRよりも自主調査の方が難しさを感じました。

特に難しいと感じたのは、今ある具体的な施策やプロジェクトの課題からリサーチを立ち上げるのではなく、より俯瞰的、長期的な視点から事業の成長にとって重要なリサーチを企画する必要がある点です。そこの具体と抽象のバランスが難しく、「何のためのリサーチか」が曖昧になりやすい側面がありました。
このように、自主調査に関しては必ずしも納得のいくリサーチだったとは言えないですが、そこで色々と考え、試行錯誤できたこと自体はよかったと思います。改めてUXリサーチの問いや目的、その活用方法などのあり方について考えるいい機会になりました。温かく見守りながら、試行錯誤する余地を与えていただいたメンターの方やUXリサーチチームの方に感謝です。

また、自主調査の報告会で、PMやデザイナーの方々を含めて色々と意見交換できたことも収穫の1つでした。例えばインタビューの結果から、アプリの支払い画面のUIUXやメルカードに対する認識など、プロダクトの基盤となる体験に課題がありそうだということをメンバー間で共有できたのは良かったです。

インターンを振り返って

今回のインターンでは、UXリサーチャーが実際に取り組んでいる業務に取り組み、UXリサーチの楽しさや難しさ、自分のスキルが生きる部分とまだまだ伸びしろがある部分など、色々と学ぶことができました。

最後に、今回のインターン全体を振り返って、個人的に経験できてよかったこと、特にUXリサーチャーに求められるスキルや考え方を知るという意味で経験できてよかったことを、2つお伝えできればと思います。

調査サイクルの早さ

1つ目は、事業会社のUXリサーチャーが、かなり短い時間で次々とリサーチを回しているということです。1つのリサーチの準備から報告に至るまで、全ての局面でかけられる時間はかなり限られており、その時間的な制約の大きさは大学での研究の比ではありません。

このように早いサイクルで調査をするためには、色々と犠牲にしなければならないことも出てきます。私自身、今回UXリサーチに取り組む中で、「あれも調べたいけど・・・」「ここを深掘りしきれなかったな・・・」ということが何度かありました。他の方のUXリサーチを見ていても、限られたリソースと向き合う中で、折り合いをつけなければならない場面はしばしば出てくるのかなと感じました。

このような調査サイクルの早さや、それに伴う取捨選択については、人それぞれ考えがあると思います。ただ、この点があまり気にならない、もしくは逆に、限られたリソースでどう上手くやりくりできるかを考えるのがおもしろいと思える方は、UXリサーチをより楽しめるのかなと思います。

アウトプットの共有方法の重要性

2つ目は、UXリサーチをより価値あるものとするためには、リサーチのアウトプットをどのように周りと共有するかが重要だということです。

UXリサーチの最終的なゴールは、調査結果をプロダクトづくりやマーケティングに活用してもらうことです。このゴールを達成するために、UXリサーチャーはただ調査結果をまとめて終わるのではなく、それを共有するプロセスで、共有対象の方とうまくインタラクションしながらリサーチ活用への導入をおこなう必要があります。

リサーチのアウトプットの共有方法には、レポートのような資料形式のものだけでなく、ミーティングからワークショップ形式のものまで、様々なやり方があります。UXリサーチャーは、その中から状況に応じて適切な共有方法を選び、なおかつ共有対象の方とのインタラクションがうまくいくように設計する必要があります。

UXリサーチャーにこういったスキルが求められるということは、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、今回身をもって実感することができてよかったです。

おわりに

今回のインターン参加は本当に貴重な経験になりました。

メルカリグループでUXリサーチャーのインターンを募集したのは今回がはじめてらしく、受け入れてくださったメルペイUXリサーチチームの方々も手探りの状態だったと思いますが、メンターの方をはじめ本当に手厚いサポートをしていただき、とても充実した2ヶ月半になりました。心の底から感謝しています。

UXリサーチャーという職種は一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、今回その業務に実際に取り組んでみて、UXリサーチのおもしろさと重要性を強く感じることができました。UXリサーチを知らなかったという方も、知ってはいたけど情報が少なくてよくわからないという方も、この記事を読んで何か少しでも発見があったら嬉しいです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

メルペイではUXリサーチャーを募集しています。