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【読書感想文】かがみの孤城

やっと読めた。これがまず第一の感想。この本が話題作だったのは数年前になるのかもしれない。私が海外生活を始めたころ。そのころからずっと気になっていた小説。
高齢のために外出の機会が減った祖母に読書でもさせようと思った母から、何か小説を買うから読みたいものがあれば教えてと言われ、真っ先に思いついた「かがみの孤城」。先日帰国した際にようやく私は手にすることができた。

主人公の少女、こころは中学1年生。学校で居場所をなくして、家に閉じこもるようになったある日、部屋の姿見が光る。手を触れると鏡の中に吸い込まれて別世界へ。そのパラレルワールドで出会う仲間との交流を通して、こころの心が少しずつ変化・成長していく物語。

著者の言葉の紡ぎ方が好き。まず、登場人物の描き方。自分自身の性格とも違う、周りに似たような人がいるわけでもない。けれども、主人公のみならず登場人物一人ひとりの性格や考え方や感情の変化が、ストレートすぎる表現ではない絶妙な描写で伝わる、分かる。
つぎに、人が本能的に、あるいは意識的なのだろうが無意識にとる行動の水面下の心情や考え方の表し方。自分の中では上手く言葉にできない自らの行動の真意を、的確にそして端的に表されて、モヤモヤして視覚化できなかった己の思考回路が浮彫にされる感じ。例えば、人との接し方。相手に応じて、年齢とは別の上下関係、自分の位置付けを定めて、話し方や自分の見せ方を変えている。無意識に、でもきっと意識的に、感覚的に。誰しもが持っているであろうこうした思考を、登場人物の言動描写から気付かされる。

また、話の構成と展開に感服する。パラレルワールドの仲間同士のやり取りや行動、感情表現に、若干の違和感や、なぜこんな表現の仕方をするのだろうかと疑問になる点がさりげなく散りばめられているのだが、これらは全て伏線で、読了すればその伏線が全て回収される。もう一度読み返せば、さらにその伏線ワードが際立ってみえる。

この主人公と同じぐらいの年齢の時にこの本に出会っていたら、自分の級友との付き合いは、学生生活は、どのような影響を受けただろうか。学生時代も経験し、人間社会で30年ほど生きているからこそ、登場人物たちの抱える悩みや胸の痛みが分かるのか、中学生の自分でも同じようにそれを捉えることができたのか。

中学生の頃、内申点のために学級委員長を務めていた私。(この本の主人公を悩ます子みたいな学級委員長ではなかったと言いたい。) 各クラスの学級委員長が集まって、いじめや不登校の子達についての問題とその解決策を討論したことがあった。でも私はいじめをする子の心理、不登校気味になる子の心理が全然理解できなくて、出した意見は私がいじめられている子や不登校気味の子に優しく接するといった表面上の解決策。(よく言う、いじめられている子と仲良くしたら自分もいじめられるとは、その当時は不思議と思わなかった。)いじめられている子の苦しみを根本的に理解しようとしたり、気持ちに寄り添おうと努めたりする考えには至らなかった気がする。
正義感を持って学級委員長を務めていたと言いたいけれど、クラスメイトからどういう風に見られていたのだろうかと今更ながら不安になる。学級委員長という面倒な役を引き受けてくれる奴だと思われていたのか、偉そうな奴だと思われていたのか、それとも普通に良い印象だったのか。クラスメイトを見渡して、この中なら自分が上に立てるだろうといった少々おごり高ぶった考えもどこかにあったかもしれない。中学時代にこの本に出会っていたら、もっと級友を慮れる生徒だったのかなと思う。

読了して、人としてあるべき心の有り様に改めて気付かされた。そして、一歩踏み出す勇気。一歩踏み出した先が自分に合わなければそれで良い。別の道はまだ他にもたくさんあるから。30代になって今更新しいことなんてって思いがちな今日この頃を見つめなおす。私にもまだまだ新しい世界に踏み出す時間は十分にあるんだと。


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