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ラーメン屋である僕たちの物語2nd ⑥


「哀 戦士」


前編








認めたくないものだな

自分自身の

若さゆえの過ちというものを


シャア・アズナブル




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【読者の皆様へ】
※今回の話では一部登場人物に対して、大西の「贔屓目フィルター」が過分に影響している可能性があります。
ご理解、ご了承の上、用法、用量を守って、正しくご書見ください。





2005年

2月




「いらっしゃいませー!」




「ありがとうございまーす!」





ひなどりも2度目の怒涛の正月営業を乗り越え、お屠蘇気分もすっかり落ち着いた頃。


ランチ営業ギリギリに、懐かしい来客があった。





「お・お・に・し!」





「ん?」


振り返ると、同い年くらいの女性客がカウンターの前に立っていた。


「えーと…?」


誰だ?この子。俺のこと知ってるぞ。


大西脳みそフル回転で人物検索をするが、誰だか思い出せない。



やばい、誰だっけ…


気まずい『間』が流れてしまった。



「え?覚えてないのぉ?…Nだよ!」



少しがっかりした仕草を見せて、その女性が名乗った。



「…N」


「…N?」


「あーー!!」


完っ全に思い出した!


村岡小学校のクラスメイトのNだ!


小学生の頃は、太い眉毛に、うっすら髭のような産毛が生えていた元気なNだ。
(ごめん笑)


あの頃から整った顔をしていたけれど…


「おー!久しぶりじゃん!N!いやぁ、可愛くなったなあ!」


Nはこの頃の観月ありささんに似ていた


僕は心の声がそのまま出てしまった。


「あはは!なにそれ笑」


「Tも久しぶり!」


NはTっさんに声をかけた。


そう、Tっさんも同じクラスになったことがあるかはわからないが、同じ小学校に通っていたからお互い知っている仲なのだ。


「久しぶりですね!」



Tっさんが嬉しそうに挨拶を返す。


「大西とTが鎌倉でラーメン屋やってるって聞いて、近くに用事があったし来たんだよ!」


Nが白い歯を覗かせて言った。



「そうなんだ!ありがとう!」


「嬉しいなあ!じゃあ、早速ラーメンお作りしましょうか!」



久しぶりの再会に僕も嬉しくて、ついテンションが上がる。

しかも…可愛いぞ。笑

「何にする?」


Nは卓上のメニューを眺めて悩んでいる。


「んーと、じゃあ…オススメで!」



「オススメね!かしこまりました!」


Tっさんが何か言いたそうな顔をしていたが、僕は久しぶりの再会に、ウキウキとら〜めんを作り始めた。



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コトッ




「お待たせしました!」




「わあ!美味しそう〜!」


「いただきまーす!」


ら〜めんを前に嬉しそうな反応をするN。


一口ずつスープと麺を味わうと、屈託のない笑顔で言った。


「美味しい〜!」




…可愛い。笑


「ありがとう!ゆっくりしていってね!」




そうNに声をかけながら、僕は…


僕は俄然「今のN」に興味が湧いてきた。



ら〜めんを食べ終えそうなタイミングを見計らって声をかける。


「Nは今はどこ住んでるの?あの実家?」


「ううん、今は横浜の方。仕事が横浜なんだよね」


「へえ、何関係の仕事なの?」


ら〜めんを食べる隙間を縫って質問をしていく。


「歯科助手だよ」



…歯科助手…!

…なるほど!


「歯科助手って可愛い子が多い印象あるなあ」


「あはは!確かにうちのクリニックも可愛い子多いよ!」




「やっぱりそっかあ!笑。患者さんにもモテそうだね!」


僕が探りをいれると、Nは苦笑いしながら言った。


「そんなことないよー笑。仕事が忙しくてなかなか出会いもないよ。」



ベストボールがきちゃった。

「ふーん、そうなんだ。じゃあさ、今度飲み会しようよ!」


「飲み会?」

「うん、タイミング合う日でいいからさ!
Tっさんが彼女募集中なんだよ、ね!Tっさん!」


突然話を振られたTっさんが驚いた顔をして僕を見る。


「わ、わたしですか!?」


「いや、まあ、それはそうですけど…ゴニョゴニョ…」


ゴニョゴニョと呟くTっさんをよそに、僕は話を進める。


「ね!今度、横浜あたりでさ!人数ももう少し声かけてみるから。どうかな?」


Nはちょっと考えていたが


「あはは!わかった、いいよ!こっちも声かけとくね!」


「じゃあ大西のケータイ教えて!交換しよ!」


そうして、お互いの連絡先を交換し、


「ごちそうさま!じゃあ連絡するね!」


ら〜めんを食べ終えたNは席を立ち、僕たちに手を振った。


「うん、俺も連絡するよ!今日はありがとう!」


満面の笑みの僕と、困惑した顔のTっさんでNを見送った。


「またね!」


Nはガラス張りのドアの向こうから、はじけるような笑顔のまま僕たちにもう一度手を振って、鎌倉駅方面へと歩いていった。


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「て・ん・ち・ょ〜」




Tっさんが恨めしそうに僕を呼ぶ。


「わたしをダシにしないでくださいよ!
そもそもわたしは知らない女の子と
飲むのとか苦手なの知ってるでしょ!?
絶対に行きませんからね!」



ブリブリ怒って抗議してきた。

包丁は…持ってなかったw


「いいじゃん、久しぶりに再開した同級生と飲むくらいさ〜。ね!」

僕はTっさんを宥めようとしたが

「知らない子も来るって話じゃないですか!」

Tっさんは不貞腐れてる。

「まあ、それはTっさんの新しい出会いということで笑」

屁理屈を繰り返す僕に、Tっさんが正論を投げつけた。

「もう飲み会の体の「合コン」じゃないですか!そもそも店長、彼女いるのに合コン行っていいんですか!?」




行きたくなくて必死だった。


そして僕は


「Tっさん!」


僕は大きな声で主張した。



「それはそれ!
これはこれです!」




Tっさんはポカーンとした後

「…まーた、この人は!…」

再びゴニョゴニョと口の中で何か言ったかと思うと


「…歯ぁ食いしばれ!そんな大人!修正してやる!」



Tっさんが冗談まじりに殴りかかってきた。


僕もその冗談に乗って殴られたふりをして返す。


「これが若さか…」



「ぷっ!…わはははははは!」


僕たちはその日も、そんな風にふざけあっては笑い合っていた。


しかしその日、Tっさんは断固として折れなかった笑


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翌日



「おはよう!Tっさん!」



「おはようございます。今日も寒いですね〜」


朝から開店の準備をしながら、Tっさんと昨日の続きをしていた。


「Tっさん、どう?少しは行く気になった?」


「ならないですよ!」


「それでも男ですか!軟弱者!」


「絶対に行きませんてば!」


ふむ。これは説得に時間がかかりそうだ。


外堀から埋めて逃げられなくするしかないな、こりゃ。


そう考えて、一旦この話は置いておこうと思ったとき、


「それはそうと、店長!」



Tっさんが急に大きな声で僕を呼んだ。


「これ、例のモノです」


スッと、一枚のDVDを差し出してきた。


「おお〜!ありがとう!」


感謝を伝え「例のモノ」を受け取ろうとした時



「おはようございまーす!」


ちょうどバイトちゃんが出勤してきて、受け渡し現場に出くわした。


「え?なになに?エッチなDVDの受け渡しですか?朝からやめてくださいよ〜笑」


来るなり早々、ドン引きするバイトちゃん。


「いやいやいや!これはそういうんじゃないんだよ!」


「そうそう!これは、いいものですから!」


2人とも変に慌てて言い繕ってしまった。
(そういうモノの取引も何度もあったがw)


「え〜、怪しい…」


不潔なものを見るような目で、疑いの視線を僕たちに向けるバイトちゃん。



それを見つけて、Tっさんが誇らしげに宣言した。


「これはね!『ガンダム』のDVDですよ!」



Tっさんは多趣味である。

彼はヤクルトスワローズファンであり、
セリエAサンプドリアファンであり、
電車好きであり、音楽好きであり、
パソコンマニアであり、ガンダムマニアだった。(現在はラーメンヲタクにもなってる)


僕はTっさんの趣味では、音楽以外はさっぱりわからなかったが
(そして僕はバイクの楽しさを教えた)

「ガンダムを観てないなんて義務教育を修めてないですよ!」

という、Tっさんの説得により、毎週2話ずつDVDを借りて観ていたのだった。

最初こそギターを弾きながらの「ながら見」をしていたが、話が進むにつれ、その世界観、人間模様、そして登場人物の個性などの面白さに夢中になって観るようになった。


そして、ほぼ毎日の仕込みの時間にTっさんに各エピソードの名場面、飯台詞を刷り込まれて過ごしていた。

まるで予習、復習の手厚い家庭教師だ。

そりゃ、こちらもいやでも詳しくなっていった。



「ガンダム?ふーん。あたしはよくわかんないんで」


バイトちゃんは急速に興味をなくし、朝の支度に入った。


「Tっさん!バイトちゃんにも語ってやって!」


その後、Tっさんが熱く、熱く、ガンダム愛を繰り広げたが、バイトちゃんの心にメギドの火が灯ることはなく、ランチ営業に突入していったのだった。



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その日のランチ営業は終わり、中仕込みの時間に、嬉しい来客があった。


「大西くん!」



強面で体格の良い、黒いライダースジャケット姿のロックミュージシャンの様な出立ちの男がひなどりにやってきた。


「あ!i村さん!こんにちは!久しぶりですね!」

このi村さんは上大岡(当時)で大人気のラーメン屋をやっている同業者だ。


数年前の第三次ラーメンブームの中、大きなムーブメントが起きていた。

ラーメン界の「若き天才」(ニュータイプ)の登場だ。


筆頭格である、高座渋谷(当時)の「中村屋」中村栄利さんは若干22歳でラーメン店をオープンし、瞬く間に行列店になり、メディアにも引っ張りだこだった。

ある年のお正月限定麺150食が開店前の行列で売り切れた伝説はよく覚えている。


当時、支那そばやに並び、日本で最も有名なラーメン店だったのは間違いないだろう。


i村さんは、その中村屋に並ぶと賞される天才若手ラーメン職人だった。

めじろにもよく来てくれていて、僕やTっさんより一つ年上のi村さんを、僕たちは「近所の話せる兄ちゃん」として慕っていた。



「新しいバイク買ったからさぁ、飛ばしてきたんだけど、間に合わなかったか!わははは!」


2月に上大岡から高速道路を使って来てくれたのだ。さぞ寒かったろう。


「新しいバイク!車種はなんですか?」


「KAWASAKIのKH(通称ケッチ)だよ。新しいっつっても中古だけどさぁ。スリープラグに改造されたやつw」


「スリープラグ!?またマニアックなw」

川崎重工「KH」
特攻の拓にも登場した人気車種だ



「ああ、加速がヤバいんだけど、振動もヤバくてさぁ、ボルトが緩んで高速でパーツが落ちちゃったよ!わははは!」


豪快に笑うi村さん。


i村さんはラーメン屋をやる前は、プロを目指してバンド活動をしていた元ドラマーだ。
それはそれは女性にもモテていたそうで、よく武勇伝を聞かせてもらっていた。


…ん?これはもしかして…


「i村さん、今度合コンするんですけど、一緒にどうですか?」


「合コン?いいね。相手は?」

「歯科助手です」


「いいね!行くよ!わはは!」



思った通り、話が早いw

「じゃあ、うちのTも一緒に3人で行きましょうか!」


ここでTっさんを囲い込んだ。


「…ちょっ!店長!」


ずっと静かに話を聞いていたTっさんが驚いて抗議してきたが、僕は手で制止して話を続けた。


「場所は横浜を予定してますけど、どこかいいお店ありますか?」


僕よりi村さんの方が横浜に詳しいし、女の子との付き合いにも長けているはずだ。

「大丈夫!店は俺に任せてよ!わははは!」


「じゃあ、よろしくお願いします!笑」

i村さんは豪快に笑い、快諾してくれた。


「日にちや時間はまた連絡しますね!」

「わかった!じゃあ連絡待ってるよ!」


そしてi村さんは次の予定があるからと、ケッチに跨ると爆音を上げて台風の様に去って行った。


豪雷のような音を響かせて走り去るi村さんを、僕たちは頼れる兄貴分リュウ・ホセイの様だと思った。


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「てんちょ〜」



Tっさんが弱々しく僕を呼ぶ。


「Tっさん、i村さんにも声かけちゃったし、もう観念してくださいw」


僕は笑顔でTっさんのうなだれた肩を叩いた。


「…はぁ、わかりましたよ!行けばいいんでしょ!行けば!でも今回っきりですからね!」


Tっさんもようやく覚悟を決めてくれた。


これで材料は揃った。


その夜…


「あ、もしもしN?大西だけど…」



僕は意気揚々とNに連絡をして、日時の約束を取り交わした。

Nに会えるのが待ち遠しかった
※写真は観月ありささんです



電話口のNもまたよく笑い、可愛かった笑


こうして、3対3の黒いラーメン三連星と歯科助手女子たちの飲み会は決まり、僕は遠足を待つ小学生のようにワクワクしていた。





そして


いよいよ決戦(合コン)当日を迎える。







to be coutined➡︎

























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