ADHDの「いつもの困った行動(心理ゲーム)」は脳の刺激不足が原因だった。
ADHDの生きづらさは、半端ない。しかし、ADHDと生活する人も大変だ。家庭で、職場で、毎日、毎日、ハチャメチャなADHDに振り回されている人は「大変なのはこっちだよ」と言いたくなるだろう。私もkindleで、ADHDに関する本を自作しているが、妻から「推薦文を書いてあげようか。どれだけ苦労しているか書いてあげる」との申し出があったが断った。
ADHDの専門医、エイメン博士によると、ADHDは日常生活でネガティブな「ゲーム」を仕掛けることが多いという。そのゲームに巻き込まれるとイライラして大変なことになってしまう。そして、その原因が、やはりADHDの脳の活性不足にあるという大胆な仮説。これは、面白い!と思った。
「ゲーム」とADHD
なお、ここで言う「ゲーム」は、交流分析で言われる「ゲーム」と非常に似ている。交流分析(TA)では、本人も意識せずに、破壊的な対人関係を作ってしまうコミュニケーションを「ゲーム」と呼んでいる。
交流分析によれば、ゲームを始めてしまう原因は、ストローク(相手からの反応という刺激)の不足だと言われている。ところが、エイメン博士は、これをもう一歩進めて、ADHDは脳の機能が低下しているため、刺激を求めて「ゲーム」を仕掛けてしまうと論じている。
対人関係でトラブルを引き起こすような働きかけをすることで、脳に刺激が与えられ、その刺激で何とかやっていけるのだ。本人も意識しないで、この破壊的な人間関係が繰り返されることが多いという。
脳が仕掛ける「ゲーム」
エイメン博士は、いくつものネガティブゲームをあげているが、ポイントは皆、ADHDの眠ってしまっているような脳を活性化させる(刺激する)という裏の目的で読み解けることだ。
「けんかの相手をしてくれ」
「絶対に殴らせて見せる」
「もっと恐ろしいことを考えてやる」
「こっちのせいじゃない」
「絶対に言われたとおりにするもんか」
「反対のことをやってやる」
「思いついたことをすぐにやってやる」
「これでおあいこだ」
「けんかは前戯」
どの説明も非常に面白い。6歳のジェシーは、とにかく両親を刺激して、怒らせるようなことをする。両親は基本的に体罰反対派で穏やかな人なのに、ジェシー相手では、最後は爆発して終わってしまうのだ。
「ジェシーは自分から騒ぎを求めているようだった。本当はたたきたくなかったのにという両親の無念さとは裏腹に、叱られたジェシーの方は、その後しばらくは機嫌もよく落ち着いているという。・・・「朝、出がけに大げんかをすると、その日は学校でも勉強に身が入るらしいんです。でも、にこやかに送り出した日にかぎって、学校ではあれてしまう。」」
(「わかっているのにできない」脳〈1〉エイメン博士が教えてくれるADDの脳の仕組み ダニエル・G・エイメン 花風社 P271)
エイメン博士によると、ジェシーは自分の頭をはっきりさせるために、両親の怒りを利用しているのだ。もちろん、自覚はない。しかし、ケンカをしなければ、スッキリしない脳というのも不便ではないか。いくつものパターンで、周りにいる人を傷つけ、いらだたせ、問題を起こしつつ、脳に刺激を与えようとするのが、ADHDスタイルなのだ(・・・と、エイメン博士は説明する。)
エイメン博士は、基本的に投薬治療を行う精神科医だが、ADHDのタイプを見分けて適切な治療を行うと、この手の問題行動は収まるのだという。う~む、そうなると、交流分析でいう「ゲーム」は心理的な問題ではなく、脳の刺激不足だったというわけか。まったく新たな視点であった。
「ネガティブな思考」で刺激される脳
エイメン博士があげているゲームの中で「もっと恐ろしいことを考えてやる」の説明には目が開かれた。
「いやな発想」には、脳を刺激するパワーがある(P273)
というのだ。ある研究で、被験者に「うれしいこと」を思い浮かべてもらった時には、脳の活動が鎮まるのに対し、「恐ろしいこと」を思い浮かべてもらったところ、脳全体が活発に動き始めたのだという。特に活性化されたのは辺緑系(ここが活発になると鬱状態になる)と前前頭皮質(集中しやすくなる)だった。
とにかく、いつでも、嫌なこと・苦しいこと・恐ろしいこと、ネガティブな思考を追い求めているような人がいる。残念ながら私もかなりそうなんだけど、以前、同僚だったYさん(女性)はもっとすごかった。毎日、毎日、何かのことで悩んでいるのだ。その問題が解決すると、次の問題、次の問題と、悩みが尽きない。
話していて「なんか、絶えずストレスになることを探しているみたいだね」と言ってしまったくらいだ。Yさんは、私の数倍上を行くADHDの女性だったが、もしかすると、脳を活性化させたくて、いつも悪いことを考える習慣がついてしまっていたのかもしれない。
生産的に脳を刺激する
私も、幼いころから、いたずら癖があり、とにかく怒られて、殴られて育った。もちろん、自分ではそんなことしたくないのに、いたずらを止めることができないのだ。怒られるまで、限界まで相手を試す。
実は、脳に刺激を与えたくて、自動的に取っていた行動だとすれば、自分の不可解な癖が分かるというものだ。そして、怒らせてきた皆さんにお詫びしたい。
もし、本当に、脳全体に刺激が不足していて、何とかしたいのであれば、誰かとケンカしたり、怒られたり、恐ろしい考えを想像したりするより、もっと良い方法がある(はずだ。)。
例えば「音読」だ。
音読をすると、脳のある部分が活性化することが分かっている。最近、私は、毎朝、30分くらいを使って音読をし続けている。もし、こんなことでも、日々のトラブルを減らせるとしたら有り難い。
他にも、自分にとって、脳を活性化する方法があるかもしれない。破壊的な「ゲーム」をしかけて、他者にご迷惑をかける前に、自分で自分の脳の始末をつけられるようになりたいものだと思った。