コロナ禍で需要爆増【感想】クローズアップ現代+「顔認証システム」
コロナ禍のなかで、今、急速に広がっているのが「顔認証」システムだ。日本には、世界をリードする顔認証システムを作る会社がある。できる限り、タッチレス(非接触型)を追い求めると、究極的に何でも「顔パス」で通す仕組みにたどり着く。顔認証システムの開発が始まったのは、30年前にさかのぼるが、AIの進歩はすさまじく、いつのまにかエラー率を0.5%まで下げることに成功した。
いまや、顔認証技術は、十分に実用化できるレベルになったのだ。もっとも、画期的な技術であるがゆえの課題(主に倫理的な課題)もある。コロナ禍に翻弄されている間に、社会の基盤となるシステムがすっかり入れ替わるかもしれない。こういうとこをしっかり押さえておくのは大事だ。
顔認証システムの使いどころ
社員の通行証がわりに顔認証を導入している企業がある。その会社では、会社の備品を使うのも、自動販売機を使うのも、顔認証でよいのだ。いちいち通行証を出したり、指紋認証(接触のリスクあり)をしなくてもよいので、利用者は楽になる。監視カメラと、顔認証のレジ(支払いは登録してあるクレジットカード)で無人店舗なども実験的に登場している。
医療分野では、認知症の発見に顔認証システムが使われていく可能性が示唆されている。順天堂大学では、認知症の患者には笑顔が見られなくなっていくことから、笑顔を分析する顔認証システムを導入してテストしている。前歯が出ていて、表情筋がしっかり動いている笑顔は高得点だ。得点が低いと、認知症の疑いあり?と診断される。また、表情の微妙な揺れから、メンタルの安定・不安定を測るシステムも開発されている。
どれも、最終的な判断は医療者が下すとはいえ、数値化したデータがあることで、判断の一助になると期待されている。さらに、面白い例では、オンライン授業の際に、学生が集中しているかどうかを顔認証システムを使用して計測している専門学校が紹介された。27か所のポイントをもとに、生徒がまっすぐ前を向いているかで、集中度を判断する。講師にとって、生徒からの何らかのフィードバックがあるのは助かるのだそうだ。
いつのまにか、顔認証システムは生活のあらゆるところに根を張る可能性がある。この新しいシステムは、まだまだ倫理的な問題も抱えている。
顔認証システムの危険な側面
新しい技術は何でも、倫理との兼ね合いが大事だ。世界では顔認証システムが個人のプライバシーを侵すことへの懸念の声が大きくなっている。イギリスでは、今年の8月に警察が顔認証技術を捜査のために使用することを違法とする判断が下された。また、今年の9月にアメリカのオレゴン州では民間企業が公共の場所で顔認証システムを使用することを禁じた。
アメリカでは、犯罪捜査等に使用される顔認証システムで誤認逮捕が生じたり、人種差別の問題が再燃したり、なかなか議論を呼ぶ話題になっているようだ。白人男性に比べると、女性、黒人のエラー率は高くなることが知られている。顔認証システムで犯罪捜査が行われるようになると、いっそう警察による有色人種への暴力などが問題になる可能性がある。AmazonやIBMなど、大手企業が顔認証システムのインフラから撤退を始めている。
世界的には逆風だが、日本では、一般の人があまり関心を持っていない間に、あらゆるところに顔認証システムが入り込み始めている。先日、中国で進む顔認証システムのドキュメンタリーを見たが、あまりに高度で恐ろしいほどだった。すべての人の行動は監視され、生活態度に応じて得点がつき、それに応じて表彰されたり、罰せられたりする。
顔認証システムに関しては、NECの技術が世界を牽引しているので、日本でも、これからどんどん広まっていく可能性はある。コロナ禍の中で、中国では監視・統制をいっそう強化しているが、市民は「そのおかげでコロナを乗り越えられた」と感謝してさえいる。(参考:【NHK】「巨龍・中国が変えゆく世界“ポストコロナ”を迎える市民は」)
火事場泥棒とは言わないけど、こういう社会のショック状態の隙をついて、市民の自由を奪おうとするリスクはあるものだから気を付けることは必要だ。まさに、ショックドクトリン。(参考:【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ナオミ・クライン~新たな“ショックドクトリン”を警戒せよ」)
顔認証システムを賢く使う
人類は、開いてしまった扉を閉じることはできない。いつの時代も。顔認証システムも、使わないという方向に進むことはないだろう(今は、一部反発があるけれども)。だからこそ、賢く使わなければならない。
例えば、顔認証システムは、空港での出入国管理には適している。十分な照度があり、正面からの顔認証ができるからだ。しかし、犯罪捜査などの場合は、暗闇でわずかに映った防犯カメラの画像から犯人を見つけ出すのは誤認逮捕につながりかねない。要は、顔認証システムの得意分野と不得意分野を見分けることだ。
顔認証システムでメンタルが読み取れるという試みがあるが、完全な信頼を置くことはできないだろう。AIは教えていないことを行うことができない。表情から感情を読み取るのは人間でも難しい。そうであれば、その人間が入力したデータの限界がAIの限界なのだ。そういうことも分かったうえで、顔認証システムを使いこなすことだ。
AIに過剰な信頼は禁物だ。それは人間が使う「道具」に過ぎない。そうでなければ、やがて、AIが「神」になってしまう日が来る。そうなりゃ、ほんとに、「2001年宇宙の旅」だ。