【感想】NHK-BS1スペシャル コロナ危機 未来の選択「ナオミ・クライン~新たな“ショックドクトリン”を警戒せよ」
世界の知性が語る「コロナ後の未来」第二回はナオミ・クラインだ。彼女は「ショックドクトリン」などの著書で知られている、新進気鋭のジャーナリストだ。一回目のジャレド・ダイアモンドが人類史・文明の歴史を起点にコロナ後の世界を見せてくれたのに対し、ナオミ・クラインは、ショックドクトリンの視点から、猛烈に普及していくテレワークやオンライン授業などに警笛を鳴らす。
ショックドクトリンに関しては後述するけど、この観点は、全く持ったことがなかったので、やはり目から鱗が落ちる思いだった。自分にとって、気になったことを中心にまとめておこうと思う。NHKオンデマンドでは、今でも見られるのでぜひ。
ショックドクトリンとは
ショックドクトリンとは、災害や事故などの緊急事態のショック状態を利用して、企業などが利益を得るための行動をとることを言う。日本語に直すと「惨事便乗型資本主義」だ。
2003年のイラク戦争の際に、ナオミ・クラインは実際にイラクにいて現場取材をしていた。フセイン政権が倒され無政府状態になりそうな、ショック状態の中で、アメリカ政府(アメリカ企業)が取った行動は、ショックドクトリンの典型だ。
アメリカがイラク復興のために派遣した行政長官(日本で言えばGHQみたいなものかな)は、イラクの国有化企業を効率が悪いからという理由で、次から次へと解体していく。そして、法律を変え、外国の企業が資産を所有できるようにし、外国に利益を持ちだせるようにしていく。そこにすかさず、アメリカ企業が入り込み、イラクでビジネスを展開しようとしたのだ。
ショック状態にあったイラク国民の隙をつき、合法的に?略奪行為を働こうとした。フセイン政権の妥当性、イラク戦争の合法性さえ、後に疑問視されたが、その後もこんな恐ろしいことをしていたとは、つくづく資本主義国というのは怖い。勝てば官軍。好き勝手し放題だ。
しかし、イラク国民はこれに気づき猛烈な反対を繰り広げ、テロ行為が悪化し、アメリカ企業は次々とイラクを引き上げることになった。イラクに対するショックドクトリンは失敗した。しかし、パニックが生じるような現場では、いつでもそれに乗じて利益を得ようとする企業・火事場泥棒のような存在が表れるものだ。
「スクリーン・ニューディール」
ナオミ・クラインが今注目しているのは、コロナ禍でオンライン授業やリモートワークなどが推し進められていることだ。コロナ禍で物事が進まなくなっている中で、オンライン化は歓迎されることに思える。しかし、その背後には、グーグルなどの民間企業の営利主義が見え隠れするという。ナオミ・クラインは、これを「スクリーン・ニューディール」と呼んで批難する。
実際に、グーグルは現在、オンライン授業に関わってある州から訴えられている。保護者の同意を得ずに、児童の位置情報・検索キーワード・パスワード情報などを取得していたという。グーグルは、これは違法行為ではないと述べて裁判で戦っている最中だ。
コロナ禍のパニックに乗じて、一民間企業のグーグルなどが、ニューヨーク州のクオモ知事が指揮する仕事や学校のオンライン化・リモート化に強力に加わり始めている。民主的な手順を経ないで、行政上の物事に民間企業が加わり始めている。注意しなければならないのは、民間企業はあくまでも営利目的のために存在しているということだ。
オンラインの遠隔治療に関しても懸念がある。この時期だからこそ、便利でメリットばかりに思えるが、実際には個人情報が抜き取られたり、それが健康ビジネスに利用される恐れが少なくない。営利目的の民間企業が公的な装いをしたとしても、それを素直に信じてはいけない。
「グリーン・ニューディール」
ナオミ・クラインは、コロナ後の未来には二つの道があるという。一つは、テクノロジーに投資し、よりいっそうオンライン化を進める取り組みである「スクリーン・ニューディール」だ。そして、もう一つの道は、これとは対照的に、自然回帰・再生可能なエネルギーを用いて自然と共生していく方向に舵を切る政策「グリーン・ニューディール」だ。
ドイツは、電気自動車・電車や、太陽光発電、ゴミのリサイクルシステムなど行政でグリーン・ニューディールに取り組んでいる国だ。
コロナは大切なことを私たちに教えてくれた。それは「スローダウンを受け入れること」だ。今の社会で、我々は、いつでも競争し、他の人に取り残される恐れを抱いているけれど、コロナのおかげで、実は競争する必要なんてなかったのだと気づき始めている。コロナで、消費活動が止まると、大気も自然も驚くほどの回復力を見せ始めた。コロナは、無限の消費と自然からの略奪をやめるようにと、地球が発する警告なのかもしれない。
この教訓を活かし、もっと、人と人とのつながり、自然を大切にする方向に舵を切るか、それとも、オンライン化を促進させ、もっと早くもっと効率的にビジネスを進める方向に舵を切るか、今は重要な局面なのだという。この指摘には考えさせられた。
まとめ
私は、コロナ禍の中でもオンライン化によって、もっと社会が効率的になることを歓迎していたので、ショックドクトリンという視点は考えたこともないものであった。しかし、こういうパニック時こそ、冷静にならなければならないのも事実だ。これは、読んでおかなければならない本だ。
ナオミ・クラインは、繰り返し、この時期には人と人のつながりの大切さが分かるようになったと訴えている。医療職などのエッセンシャルワーカーへの感謝の気持ちが深まり、働いている人への人間らしい目線が回復し始めている。この教訓を活かし、人間的・自然回帰的なライフスタイルを選べるか、もっとオンライン化が進み、人間がコマのように使い捨てにされる資本主義がはびこるのか、今は分かれ道ってことなんだ。
コロナが突きつける課題っていうのは、ほんとに多岐に及ぶんだなぁと、腹落ちした。