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【感想】事件の涙「気づかれなかった障害”とともに」~えん罪からの再出発~

かなりの興味を持って見たNHKのドキュメンタリー「事件の涙」。今回の事件は、今年(2020年)の3月31日に「再審無罪」が確定した、西山美香さんの事件。近年「発達障害」というキーワードと共に頻繁に取り上げられるニュースだ。

この事件は、本当に痛ましいと思う。誰にとっても痛ましい16年だった。えん罪事件の被害者である美香さんにとっても、家族にとっても。しかし、報道を見聞きして、えん罪の背景(原因)に発達障害があるのかどうか?は疑問を感じていた。ともあれ、発達障害に気づけなかった親の反省と本人の気持ちを軸にしたドキュメンタリーだ。

事件のあらましをざっと。

再審無罪の経緯

2003年に病院で発生した不審死。当初、医療ミスが疑われたが、この時「患者の人工呼吸器のチューブを引き抜いた」と自白したのが、当時、この病院で看護助手として働いていた美香さんだった。本人の自白があったので、美香さんは逮捕され、懲役12年の実刑を受けることになる。

しかし、懲役から10年後の2017年に、美香さんがえん罪である可能性が指摘されるようになった。亡くなった患者が「自然死」であった可能性が浮上したのだ。事件の前提が揺らぎ始めた。それに伴い、美香さんの証言がちぐはぐであることから、彼女が何らかの障害を持っているのではないかと考えられるようになった。やがて、美香さんは、軽度知的障害と発達障害(ADHD)であると診断されるようになった。

美香さんは、刑期を満了して出所したが、無罪を晴らすための再審請求を行い、それがついに認められることになった。

えん罪は「発達障害」のゆえなのか?

美香さんを診断した精神科医は、発達障害ゆえに主張を冷静に伝えられないことや、後先を考えずに他人の意見に迎合してしまうことが、えん罪を招いたと考えた。美香さんは、取り調べを受けている最中に、若い刑事に好感を持つようになり、自らありもしない罪を述べて実刑判決を受けたのだ。

美香さんの母親は、彼女の発達障害を見抜けなかったことを責めて謝罪し続ける日々だ。しかし、このえん罪事件のすべてが「発達障害」ゆえだというのは、飛躍した結論のように感じる。ある精神科医は「発達障害はウソはつかない」と述べたという。後に、美香さんは、軽度知的障害や愛着障害を抱えている可能性も指摘されている。

発達障害(ADHD)の全員が、同じような状況で彼女と同じように反応するわけではない。そんな中で、私が注目したのは、番組の中で取り上げられていた美香さんの幼いころから「嘘をつく」癖だ。

嘘をつくメリット

幼いころから発達が遅く、お兄ちゃんたちとは何かが違っていた美香さん。母親は障害のことを考え、何度も脳波の検査などを行ったという。学校にいっても交友関係でなじめなかった美香さんだが、ある時期から「嘘をつく」癖が見られるようになる。「自分は兄たちと腹違いの子だ」。こんな嘘をつくと、周りからの注目を浴びた。本人も「関心を持ってもらうためには、嘘をつくしかなかった」と語っている。

美香さんは取り調べの際に、「自分が殺した」と嘘の自白をすることで、刑事たちが真剣に話を聞いてくれることに気づいた。一人の男性がこれほど真剣に自分に向かい合ってくれる。そのことに、心をときめかせ、まるでデートに行くような気分で取り調べに出かけていたのだという。

行動分析学で言えば、「真剣に話を聞いてもらえること」が、美香さんにとっての好子(メリット)になり、嘘をつくという行動が「強化」されていったのだろう。っていうか、そもそも、学生時代から培われた「嘘をつく→注目される」という強固な行動パターンがあったのだ。母親も、美香さんの「嘘をつく」傾向を知っていたので、逮捕されたときは「嘘をついているのではないか」と思ったようだ。そして、それが真実だった。

もう嘘は必要ない

裁判官は、再審無罪を下す際に、自らも涙を流しながら「もう西山さんに嘘は必要ありません。普通の女性として過ごしてください。」と言ったという。再審を行った裁判官たちは、美香さんの心の闇と真の問題に気づいていたことだろう。

それにしても、まったくのえん罪で12年も懲役刑を経験した女性の気持ちはいかばかりか。美香さんが、事件を他人事のように語り、自己分析?するのを聞いて違和感を感じた。自白がえん罪を招いたことに対する後悔や、悲しみや恨みなどの感情を感じ取れなかった。

美香さんにとって、注目を浴びること、関心を向けてもらうことに対する飢餓感があることは間違いない。そして、まさに今は、それが満たされているのだ。だから、今は嘘は必要ない。マスコミも、周囲の人たちも、まるで彼女を悲劇のヒロインとして注目している。この状況は、美香さんにとっては心地よいものであるように見える。

ただ、こんな方法で注目され・満足を得るのは破壊的だ。この注目の背後には、嘘があったからだ。彼女の嘘をつく行動が、いよいよ強化されていないことを祈りたい。美香さんは、発達障害というより「虚言癖」という行動パターンに向き合い、その癖を修正しなければいけないのではないだろうか。

彼女は発達障害だから、えん罪事件に巻き込まれたのではない、嘘をつく行動が強化され、それが彼女の処し方になっていたのだ。周囲の人たちは、彼女が嘘をついていない時に、何もしていない普通の時にこそ、声をかけ、微笑みかけ、真剣に話を聞いてあげ、やさしく接してほしい。嘘をつかなくても、自分は注目される価値があるんだということを教えてあげてほしい。

美香さんは「自分を良いように見せたくて嘘をついていたけど、そうすると信用をなくすことがわかった。これを機に成長できる。」と語っていた。その言葉が真実であってほしい。嘘はドーピングのよう、凡人を一瞬で注目されるヒーローに変えることができるもの。しかし、もう、この方法には頼ってはいけない。

今後、この事件が忘れ去られていき、静かな日常が始まった時こそ、彼女が、そして周囲の人たちが、この教訓を本気で学び取っているかどうかの真価が試されることになるだろう。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq