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【カモン カモン】「ゾッとするけど愛おしい」

・ヒューマンドラマの名手マイク・ミルズ監督最新作「カモン カモン」を鑑賞。今作も作家性が非常に強く押し出されたマイク・ミルズ作品らしい映画となっておりました。人々の普遍的な問題や転換期を重視した上で暖かさと苦しさの両方を取り零さない様に映像へと昇華させる構成。そして他作品にも共通するテーマである"人間という生物のエモーショナルな複雑さ"が本作でも取り上げられていました。

・主演を演じるのは数々の作品でその怪優っぷりを世に知らしめたホアキン・フェニックスと年相応の子供らしさに溢れるウディ・ノーマンだ。この2人の叔父と甥の関係に軸を置き、家族の繋がりとそこに付随する問題点や自己と他者との向き合いの成長が見事に描かれている。

・個人的にマイク・ミルズ作品は特に好き嫌いが分かれる監督だと感じている。彼の作品では劇的でドラマチックな演出には頼らず、その時代を生きている人々の"今"と積み重ねてきた"過去"を淡々と描く姿勢が特徴的だ。その観点からで言えば見る人によって退屈に映る映画だと主張出来るだろう。しかしながら人間の抱える繊細な一面、時代や環境が人間の精神を構築するというごく当たり前の背景、人間という生物に共通する問題を文学的に映像化する素晴らしい手腕を持った監督なのは明白だ。

・本作では、精神的な昂りを抱える少年と埋められない孤独を持った中年の家族愛を描いた内容なのだが流石と言うべきか他作品では余り突っ込まない様な部分に踏み込んでいるのがこの映画の魅力的な所だ。タイトルにも書いている通り「ゾッとするけど愛おしい」という表現には何とも唸らされる物がある。子供の無邪気な我が儘さが親の心に与えるストレス、特にジェシー(ウディ・ノーマン)の様なメンタルケアが必須な子供を育てるのは余りにも難儀であろう。愛している、愛しているからこその苦悩。子育ての難しさというアプローチを嫌なリアリティで真摯に描く切り口の鋭さよ。

・人間は他者の全てを理解出来無いし、相手の心の内を知るなど到底不可能だ。だがしかし、歩み寄る事は出来る。そして理解出来なくても、理解しようとする事は出来る。引いては返す波の様に自己と他者との繋がりを認識して、自分の事を認めて相手も認める事が出来る筈。マイク・ミルズ監督が描く哲学的人間学の真骨頂をその目で見て、その心で是非噛み砕いて貰いたい。

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