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【ディア・エヴァン・ハンセン】死人に口なしな嘘から始まる自己との向き合い

・2015年に初演されたミュージカルのミュージカル映画版『ディア・エヴァン・ハンセン』を鑑賞して参りました。

・泣ける程良かったかと聞かれると個人的には微妙と言ってしまいそうですが、扱われている設定の少々変わっている部分の点から充分面白い作品であったなと感じました。ミュージカルとしての楽曲も非常に良質で聞き応えがある物でしたし。ただ主人公を演じたベン・プラット(彼はオリジナルミュージカル版でも同名の役を演じています)は歌声も演技も素晴らしいが、実年齢28歳という事もあり容姿が流石に高校生に見えない感は否めませんでしたね。

・主人公エヴァン・ハンセンは全く目立たないナードな高校3年生、友人も居なく唯一会話するのは家族ぐるみで交流のあるジャリッドという腐れ縁のみ。エヴァンは鬱屈とした精神を抱えながら、独り孤独にセラピー通いの青春を生きていた。ある日、エヴァンは学校のパソコン室で日課である日記を書いていた。それはセラピーの一環行為であり、宛名はディア・エヴァン・ハンセン、自分から自分への手紙だ。彼はそれを誤ってコピーしてしまい、それが偶々コナーという同学年の青年の手に渡ってしまった。その上内容にはコナーの妹であるゾーイに片想いしているエヴァンの気持ちを仄めかす点も見受けられた。それを自分への挑発行為だと受け取ったコナーはエヴァンに激怒して手紙を奪って消えてしまう。エヴァンはコナーに手紙を拡散されるのではないかと恐怖していたが、数日後コナーが自殺したという訃報を知る。コナーの両親は彼が持っていた手紙からエヴァンが親友であったと思い込み、コナーとの思い出話をエヴァンに迫る。手紙の内容は一見当たり障りの無い内容であり、ゾーイに対しての記述も兄としての想いとして受け取れるし、何より宛名がエヴァンで送り主は "me"と書いていたからだ。コナーもエヴァン同様に孤独な人間であった。彼の場合は素行が悪く、両親や妹のゾーイとの折り合いも悪く、薬をやったりと学校に馴染めずに精神的に病んでいた。そんなコナーの自殺に意味を求める家族の為に、孤独な自分と他者との偶発的な繋がりに、エヴァン・ハンセンは嘘を吐く、全く知らないコナーと自分の友情ストーリーを。

・という冒頭から始まるのがこの作品です。いやぁ死人に口なしという言葉を扱って、この様な青春ミュージカルを作ったのは中々に面白い試みでした。この嘘で救われる人も居たりするのですが、嘘はやはり嘘という事で終盤エヴァンは自分の撒いた種との衝突は免れなくなります。

・愛や孤独の苦しみと向き合い、自分という存在の現実を受け止めてそれとどう和解していくのかが人生の課題である。ってなテーマを謳ったミュージカルが正にこの作品であろうと思います。誰かに寄り添い、寄り添って貰うには誠実さと対話がやはり必要不可欠だという訳です。

・刺さる人には間違いなく共感を呼ぶ本作、辛い心情や隠した本音を叫ぶ歌声に一度耳を傾けてみては如何でしょうか。

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