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【ナイトメア・アリー】「男は悪夢の袋小路にただ落ちる」

・ギレルモ・デル・トロ監督最新作『ナイトメア・アリー』を鑑賞。ビジュアル面ではデルトロらしい不気味で怪しく奇妙な雰囲気を楽しめる作品でありましたが、内容は実にシンプルでかつ冗長的な部分も目立つのがかなり残念なポイントであったかなと。長尺の映画である割には得られる満足感は非常に低い作品だったのが個人的な印象である。

・役者陣は正に素晴らしい顔ぶれの面々であり、主役であるブラッドリー・クーパーはキャラクターの内に秘めた暗闇を巧みに演じていたと思う。物語の核になる部分の一つはこの主人公スタンの内面性を非常に重視していたが、これがまあ捻りの無い設定だったとも言える。主人公が過去に犯した罪のシークエンスを導入部で展開させるのだが、これは観客に対して初手から分かりやすく説明を明示する悪手だ。この導入部から観客は彼が何を犯してどういう心境にあるのか、そこから暫く話が進んだ後のピートとジーナとの会話で完全に観客の中では帰結するだろう。その様な分かりやすい謎というか、主人公の精神の確実を築いている部分というか、それをかなりの時間最後まで引っ張るのだからまあ話に対する面白みには欠ける。

・前半部はスタンがサーカスで新たな出会いや機会に巡り合う。後半部はスタンがそこで培った物を糧に暴走して破滅へ転落する。前半部は実にデルトロ映画らしい雰囲気に満ち、後半部では一転しノワールチックな世界へと移り変わる。しかし、後半部の映像はやはり前半の様な独特な魅力には叶わず、話も相まり中弛みを感じるのは確かだ。ダークな御伽噺的作りは作品のテーマとして一貫しており、純粋な映画としては十全かもしれないが長尺の作品である事を鑑みると再三言うように物足りない。

・スタンがブロンドの美魔女に惹かれるという描写の設定の意味も予想が付きやすく、物語の最大のオチもスタンが絶対にしないと公言していた行動に背いた時点で分かる物だった。

・恐らくこの映画に対して不満を持つ多くの理由はこの分かりやすさであろうと思う。映画としての雰囲気は謎に溢れた奇しくもミステリアスな闇物語に見えるが、その実態は過去の因果を振り払えずに破滅する男の転落を丁寧に理解しやすく描いているだけなのだ。この妙なミスマッチ感が作品を観客の想像と期待から少し離れてしまった疎外感を感じる物へと変貌させているのではないだろうか。

・しかし、この様な不満点はあるものの映像面でのデルトロらしいビジュアルを堪能出来るのは事実だ。一見する価値は確かにある。

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