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【マニアック・ドライバー】肉欲、殺人欲、男はただ駆られて。

・光武蔵人監督による和製ジャッロムービー『マニアック・ドライバー』を鑑賞。私はジャッロに滅茶苦茶明るい訳では無いが、ダリオ・アルジェントの全盛期ジャッロ作品群は大好きだし、最初にジャッロを映画化したマリオ・バーヴァの『知りすぎた少女』も大好きだ。(本作にはバーヴァの傑作『モデル連続殺人!』を彷彿させるカットもあったが、あのシーンはシュールで思わず笑ってしまった。)

・そして本作はジャパニーズ・ジャッロと大きく謳うために一体どの様な作品かとわくわくとした気持ちで挑んだ所、純粋に期待を裏切られる部分も有りながらもこれはしてやられたなぁと思う作品でありました。

・映像面や音楽面は非常に素晴らしく、正にダリオ・アルジェントが提示したジャッロ映画の雰囲気を携えていました。ただこの作品ジャッロ的なフーダニットでは無いのです。タイトルから分かる通りに本作はジャッロ映画だけで無く、『マニアック』と『タクシードライバー』を強く意識した作りとなっています。主人公の狂気的な一面を最初から明示してどう殺して行くのかを描いたハウダニットホワイダニット的な『マニアック』の一面、精神に異常をきたした男のタガが外れて暴走するも意外な展開に陥るという『タクシードライバー』の一面。この両方の要素を兼ね備えたのがこの『マニアック・ドライバー』なのである。

・ただ然し、最後まで本作を見通すと成る程。これはある種のフーダニットでもあるのだなぁと…膝をうつをオチが用意されていたのです。そもそもジャッロというのはミステリ小説、犯罪小説、探偵小説等の総称であり窓口の広いジャンルな訳であり犯人が誰か最後まで分からないという単純な部分に拘る必要もそもそも無いのでしょう。鑑賞中はこれってジャッロなのかなぁ?と疑心に囚われていた私の通念を恥じざるを得ないオチ、爽快でした。

・全体的な内容としてはエロティックな表現をやり過ぎで最早これはAVだろと言いたくなるしつこさであり辟易する部分も正直ありました。しかしこの部分さえもオチのサイクルの一つであったのかと思うと、木村知貴演じる主人公フジナガの不気味さがより際立つという物です。

・そう正にこの主人公を演じた木村知貴の怪演がこの作品の魅力を数倍にまで底上げしてくれているのだ。フジナガの複雑で歪んだ人間像を淡々とかつ表情豊かに魅せてくれるのだから圧巻の一言に尽きる。

・日本でもこの様な変態的で鬱屈したジャンルの映画を撮り続ける監督達が居るのは、我々の様ないち映画ファンとして非常に喜ばしい想いでしかない。たとえそれが少数精鋭の低予算映画であっても、この様なフリークス愛に満ちた真剣な作りを見れば当然応援してしまう物なのですから…。

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