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【死刑にいたる病】「それは同化する病」

・白石和彌監督最新作『死刑にいたる病』を鑑賞。原作小説は未読です。総評としては100点中80点ちょいぐらい、全体的に物語に対する消化不良感が否めないのが残念な所。しかしながら社会に溶け込む美学持ちサイコパスの心理を描いた作品としてはかなり素晴らしい映画であった。

・阿部サダヲがハイライトのない死んだ目をしながら演じる榛村大和という殺人鬼。その異常性と狡猾な殺人スタイルを淡々と描く様は非常に不気味だ。そして面会室にて多様されるとある演出、ガラスごしに二者の顔が重なり主人公と殺人鬼の精神が同化する恐ろしいショットの数々。名作『パリ、テキサス』を彷彿とさせる(こちらは面会室では無いのだが)この見せ方は本作の持つ趣旨と綺麗に噛み合う美しさを放っているのが魅力的だ。

・一応サスペンスという体裁を取っている物の伏線が分かりやすく映像に挟まれるので大雑把には展開が読めるのが物足りないポイントの一つ。オチもスッキリしないというか、終盤の展開の所為でサスペンスでは無くサイコパスの行動を描くだけの映画に成り下がったと言っても過言ではないだろう。

・あくまでもきっかけがサスペンスの入り口であり、出口はそうでは無いのだ。予告編でも謳われる物語のキーとなる部分の事実が判明しようがしまいが、結局は主人公が歩んだこの過程が彼に何を齎らすのか?という点に趣を置いているのだから。

・再三言うようにサイコパスを描く映画としては実に良い映画であった。阿部サダヲの演技力の高さをとことん味わう映画としても最高の出来だろう。他に特筆すべき所と言えば"わざとらしさを削いだごく自然な作風"だろうか。この様な映画作品は総じてわざとらしい創作物的な演出に囚われがちだが、本作はかなり良い線を狙っていた。実際映像としては創作物的な展開が散見されるのだが、何故かわざとらしいなぁという嫌味をあまりに感じさせないのだ。流石白石和彌監督の手腕というべきか、バイオレンスでありながらも作品としての丁寧さを欠かない良い監督だと改めて思わされた。

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