ショートショート 振り返ると×鬼
「振り返ると」×「鬼」
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"ソレ"は、突然現れた。
14歳の僕には重すぎる圧であった。。
14歳の青春真っ只中。
振り返る僕の思い出は、
なぜか、本当に青みがかっている。
仲良く、楽しく、
上手くもなく、下手でもない、大好きな野球を、
毎日のように出来る部活動は、
中学生になった僕には新鮮で、
学校生活の中心だった。
中学生2年生になり、
はじめての後輩ができた。
「可愛いやつらだ。一年前の自分もこんなに幼かったっけ?笑」
大人になった今振り返れば、中2の君もまだまだ幼く可愛いのだが、当時の僕はこんなことを考えていたのだ。
しかし、
こんな微笑ましい青春の1ページは、
次の瞬間、突然消え去った。
はじめての後輩とともにやってきた
新しい野球部の顧問の先生。
「鬼」が現れたのだ。
昔話に出てくる「鬼」というのは、
たいてい弱者に理不尽を強いるイメージがある。
甲子園にも出場したことのある、
同じ市内の高校の野球部から来た「鬼」。
弱者の僕は、部員という仲間とともに、
「甲子園レベルの高校生同様の練習量」
という理不尽をくらうのだった。
「鬼」とは、
"日本語では逞しい妖怪のイメージから「強い」「悪い」「怖い」「ものすごい」「大きな」といった意味の冠詞として使われる場合もある。"
14歳の僕の目に映るその人は、
まさに「鬼」そのものだった。
「強い」
「悪い」
「怖い」
「ものすごい」
「大きな」
僕が味わったこれらの感情は、
どれも強烈な感覚として残っている。
時には打撃を受けることもあった。
また、この「鬼」は、肉体的に圧倒的な強さを誇るだけでなく、精神的な攻撃も得意としていた。
成長期の14歳の少年は、
15歳になったとき、
身長が15cm伸びた。
体重は1kgも増えなかった。
周りの仲間も同様に痩せ細っていった。
そう、僕らは昔話によく出てくる、
鬼にやられる量産型弱者の姿になっていたのだ。
文字通り血のにじむ努力の末、
僕の最後の夏の大会、
我が野球部は千葉県大会で3位になった。
なぜ3位だったか?
それは、誰も2位以上になりたくなかったから。
優勝か準優勝してしまうと、
関東大会進出が決まる。
それはすなわち、
鬼に支配される時間の延長を意味していた。
僕と野球部の仲間が
苦労の末に手に入れた果実は、
結局その程度のものだったのだ。
夏休みが近づくこの季節になると
今年も、毎日14時間にもおよんだ理不尽を
思い出すのである。
今振り返ると、
「鬼退治」は出来なかったが
手に入れたものもある。
それはなにか?
「家族との絆」だ。
本当に昔話のようだが、
当時は家族総出で鬼と戦ったのだ。
毎朝6時と毎晩20時の送り迎えをしてくれた父
毎日お弁当を作り、汚れたユニホームを洗濯してくれた母
消耗品の野球道具を買ってくれた祖父母
過酷な状況で支えてくれた家族には、
感謝してもしきれない。
思春期真っ只中の
当時の僕に反抗期は訪れなかった。
今の僕には
「家族との時間を大切にする」
という最上位の価値観がある。
一生かけて親孝行していくつもりだ。
振り返ると 鬼
が僕に残したものは、
悪いものばかりではなかったのかもしれない。