感銘を受けた書物を聞かれると、一番に上げるのがこの本。
私にとって『アンネの日記』は、この、ある支援者の手記とバンドルだ。
優れた深町眞理子訳で何度も読んでいるので、英語で読んでいる気がしなかった。
印象深かったところこそ、深町訳が脳内再生されていた。
特に、以下の箇所など、日本語を解する人にはぜひ深町訳で読んでほしい。
私はクリスチャンとして、この勇気ある女性が、戦後「神の存在を信じられなくなった」と述懐していることに対して何も言葉をもたない。が、「神の存在」に関して手当たり次第に聖書を始めとする聖典を読みあさったこと、読んでも読んでも渇きがいえないと書いていることに共感した。そこでこの話は終わっているのだが、彼女は神に出会うことができたのだろうか。
ちなみにミープと手を携えて地下支援に奔走した夫のヘンクは、生涯を通して無神論者だったようだ。
「私の望みは死んでもなお生きること」と綴ったアンネの祈りは、はからずも成就した。
それもおそらく誰の願いをもはるかに超えた形で。畏れ多いことである。
だが、エピローグでミープはこう締めくくるのだった。
昨年、20年ぶりにアムステルダムのアンネ・フランクの家を訪れたら、あまりの変わりぶりに驚いた。
隠れ家棟にはかなり手が入れられていて、ガラス張りのクロークとカフェが併設、それでいてトイレが小さすぎ。
入場は15分刻みのオンライン予約者のみに(コロナ以前から)。
そして隣に、原宿みたいな無粋なパンケーキ屋ができていた上、アンネが愛した西教会の鐘は電子的なチープな音に。
日曜は西教会のオランダ語礼拝にも出たが、コミュニティが枯れ気味なのが見て取れた。
アムスが数年前から京都状態になって住民が閉口しているとは聞いていたが、まだ彼女が暮らした頃の面影が強かった頃に行っておいてよかったと心から思った。
小川洋子氏は生前のミープに取材している。