見出し画像

亡くなった彼を覚えていてくれた訪リハさんのちょっと良い話

仕事を終えて、ダッシュで出かけようとしたときに携帯が鳴った。
見知らぬ番号は通常出ないのだが、最近は自分の携帯で仕事の電話をすることも多い。

仕事モード100%で電話に出てみたところ、ちょっと戸惑い気味の、懐かしい声がした。

昨年亡くなった夫に一番長く関わってくれた訪問リハのSさんだった。

うぇー!どうしたんですか??うっわー、お久しぶりです!!

なんて、驚いて聞いたところ、彼は言った。

「ちょっと遅くなっちゃったかもですが、そろそろ1年だなと思って。
奥さま、どうされてましたか?」

まもなく命日を迎える夫のことを思い出して、電話をくれたのだった。
最初は、「さすが訪問看護ステーション。命日近くになるとアラートでも出て、フォローすることになってるのかな?」と思った。

でも、Sさんは異動で所属店舗も、担当地区も変わっていた。
そして、なにより夫の命日を間違えて覚えていた。

つまり、本当に、フツーに彼を思い出して、連絡をくれた、ということ。

しかも、ヤクルトファンの彼は言った。

「奥さん、野球見てないですよね。
今年、ヤクルトはイマイチなんですよねー。でも、阪神が好調なんです。
だから、夫さん、今頃喜んでるかなぁなんて。
だったらまぁいいかー、とか思うんです。」

ちょっと、泣けるではないか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

夫は若くて身体も(高齢者と比較すると)それなりに体格が良かった。
このため、我が家に来るリハさん、ヘルパーさんはそんな彼が転倒した時にも支えられるように、ガタイが良い人が多くやってきていた。

電話をくれたリハ担当のSさんもそのひとり。
在宅で彼を看取ろうと決めてから来てくれた方だった。

Sさんは背が高く、ひょうひょうとしていて、何より雨男だった。
Sさんが来るときは雨や雷雨や台風や大雪が多く、幾度となく「お天気悪いから、今日は無理して来なくて大丈夫ですよ」と連絡したものだ。

会社も退職し、ヒマになり、少しずつ出来ることが減る夫に対して、何かやりたいことは無いかと一生懸命探してくれた。

結局行くことはなかったが、旅行の計画を一緒に立てることをリハビリに取り入れてくれたり、根気よく接してくれた。
Sさんは熱狂的なヤクルトファンで、夫が阪神ファンだったので、よく勝っただの負けただの、野球ネタを話題にしてくれていた。

歩くのが難しくなり、歩行器を使うようになった頃、Sさんは
どうしても夫さんに阪神戦の観戦させてあげたいんです!!
と言い出した。
そして、東京ドームの巨人阪神戦の日程をチェックし、階段の状況、車椅子エリアの予約の方法、車で行く場合の駐車場等、色々なところに電話をして聞いてくれた。

車椅子観戦席の抽選にSさんと私で予約をして、私の抽選が当たった。
当日、息子も呼んで家族で観戦が出来た時には、心底喜んでくれた。
Sさんが一生懸命だったので、私も頑張れた。

そして彼が食べられなくなり、Sさんの役割はリハ担当者から、痰の吸引や体位変更等、本格的に訪問介護の人になった。

いよいよ出来ることは無くなり、カウントダウンの日々になった頃。
Sさんが
「今日は僕、やりたいことがあるんです。携帯お借り出来ますか?」
と言いだした。
何かと思いきや、夫の携帯で阪神戦が見られるようにDAZNのアカウントを個人で取って、設定してくれたのだ。阪神戦のデーゲームと、Sさんの訪問日が一致するところを狙っていてくれたらしい。

ベッドサイドに携帯が見えるように設置し、イヤホンで阪神戦を流した時、夫は声は出なかったが「おー、これこれ」と言うように満足そうな笑顔になり、みんなで笑った。私の記憶にある、一番最後の彼らしい笑顔だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

Sさんは本当に彼によく向き合ってくれた。
一生懸命だった。
楽しい時間を少しでも作りたいと繰り返し言っていた。
チケットの予約も、DAZNのことも、恐らくルール違反だ。
でも、そのお蔭で見れた笑顔は宝物だ。

そしてそのSさんから、
「当時の訪問医の先生のところとは別の方のケアを通してまだ接点があるんですけど。時々、みーにゃんさんの家の話題が出ますよ。」
と教えてもらった。

こうして、どこかで誰かが彼を思い出してくれている。
私たちが過ごした日々を覚えていてくれている。
ありがたいことだなぁー。

人って亡くなると、その人の存在の関わり方が変わると思っている。
生きているうちは、「身体」という実物を通じて関わっていたが、
亡くなると雰囲気というか空気というか存在というか。
ふわふわしたものとして関わるような気がする。

1周忌で、彼はいろんな人のところで漂うのかな。





阪神、頑張ってるみたいだね。
そっちにスポーツ新聞の配達はないかもだけど(笑)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?