幸せは、とどめておけないものかしら。ポーの一族の思い出
バンパネラ(吸血鬼)として、少年の姿のまま永遠に生き続ける主人公と、彼を取り巻く人間模様をオムニバス方式で描いた名作「ポーの一族」の台詞だ。”普通の人間”から存在意義を問いただされて、成長もしない、もちろん子どもを残すこともできない主人公・エドガーは自問自答する。吸血鬼の悲哀を感じる切ないシーンだ。
ところで、現代日本において、子どものいない人間に対して、
「平均寿命80年の時代に子孫も残さないで、なんのためにそんなに長く生きるの?」と言ったらどうなるだろうか。とんでもないハラスメントである。TVに出ているコメンテーターがこんな言葉を吐いたら間違いなく大炎上必至だ。自分が言われたら泣くと思う。
ポーの一族が発表されたのは第二次ベビーブームの真っ最中の1972年。結婚して、子どもを産み育てるのが当たり前のこの時代は、この台詞はファンタジーの世界のものだったのだろう。(もちろん、創作作品を我が事のように捉えて憤慨するのはナンセンスだ。)
50年も経つと時代は変わるものだなあと思うが、ポーの一族には、60年の歳月を20ページで描ききった傑作「グレンスミスの日記」がある。主人公の女性は、良き妻・良き母として家庭を守り、生活が困窮すれば仕事に出て、孫たちの面倒を見ながら日々を穏やかに過ごそうとするが、舞台は20世紀前半のドイツ。否応無しに時代の流れに翻弄されていく。
そこで主人公の口から出るのが、今回の記事タイトルにも据えているこの台詞だ。
ニュースで外国の戦争の報道がある度に、いつもこの言葉が頭をよぎる。と同時に、いつかこの言葉を自分ごととして噛み締める日が来るのではないかと、最近の世界情勢を見るたびに思う。
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