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鉄板の世界史教材

 受験勉強をするとき、どの教材を使い込んでいくかは、とても重要な問題です。世界史を選択するすべての高校生に安心しておすすめできる受験世界史の定番教材を紹介します。

【鉄板の世界史教材】
⑴教科書
『詳説世界史B』(山川出版社)

⑵用語集
『世界史用語集』(山川出版社)

⑶資料集
『タペストリー』(帝国書院)

⑷一問一答
『入試に出る世界史B一問一答』(Z会)

⑸通史
『ナビゲーター世界史B』(山川出版社)

☆『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)



<解説>
⑴世界史の教科書で誰にでも安心しておすすめできるのは、やはり圧倒的なシェアを誇る山川の『詳説世界史B』です。定番なのには理由があります。記述が手堅く、受験に必要な知識が見事なまでに網羅されているからです。掲載されている絵画や写真はどれも入試で定番のものばかり。少しでも時間に余裕があるときには(ラーメン屋さんで並んでいたり、通学する電車の中で集中できないときなど)、この山川の教科書をカバンから出して、絵画や写真、地図や年表をよく眺めて見覚えがあるようにしておきましょう。入試問題を分析していると、問題作成者はこの教科書で確認して出題しているのだなと感じることが本当に多いです。迷ったらこれで間違いありません。東大や京大の世界史論述を書く練習をするときにも、問題文を読んだあと、該当部分の教科書の記述を読み込みます。そして、少し時間を置いてから、なにも見ずに採点基準を意識して答案の骨格を箇条書きにして、それから原稿用紙に答案を書いてみてください。大切なのは教科書を見ながら書かないこと。教科書をじっくり読んで、なにが重要で意義深い出来事なのかを自分の頭の中で整理する過程が重要です。驚くほど採点基準がこの教科書の記述の中に組み込まれていることに気づくでしょう。

 次におすすめしたいのは、帝国書院の『新詳世界史B』です。この教科書は、説明がとても分かりやすく、用語の定義が明確です。今後、出題急増が確実な「世界システム論」の解説も充実しています。東大・京大・一橋など難関国立大学の受験を考えている人は、わざわざ手に入れる価値のある1冊です。

 代ゼミの本部校で長く東大世界史を担当してきた現場感覚からすると、研究熱心な東大文系の受験生山川の『詳説世界史B』に加えて、もう1冊の教科書を東大論述対策として読んでいる人が多かったです。かつては山川の『新世界史B』、その後は東京書籍の『世界史B』、そしていまは帝国書院の『新詳世界史B』へと人気が推移してきました。東大合格者を多く出す進学校も、これらの教科書を積極的に採用していた印象があります。しかし、大学入試だけを考えるなら山川の『詳説世界史B』1冊をじっくり読み込んでいけば充分です。

 たとえ私が止めても(止めませんが)、社会科学への知的好奇心が強い東大・京大・一橋志望の一部の受験生は、もう1冊の教科書を手に入れて、自分なりに比較し、世界史への理解を深めていくことでしょう。それはそれで微笑ましいことだと思います。ただし、英・数・国に余裕がない場合は、社会に時間をかけすぎるのはやめましょう。受験世界史オタクになるよりも、バランスよく英語や数学の勉強に力点を置くほうが難関国立大学に合格しやすいからです世界史の受験勉強は効率よく得点力をつける機転も重要だと言えるでしょう。


受験世界史の教材で最も重要な一冊を挙げるなら、山川の『世界史用語集』です。英語の学習に例えるなら英和辞典のようなもの。世界史受験生なら必携です。センター試験の過去問(共通テストのプレテスト)や志望校の赤本を自習室、スターバックスやドトールコーヒーなどで解くときには、必ずこの用語集も持参しましょう。問題を解き終わった後は、すぐに判らなかった用語を用語集の巻末の索引を使ってチェックする癖をつけるようにします。そして、家に帰ってから教科書や資料集でさらに理解を深めるといいでしょう。私は職業柄、どこへ移動するにも、入院中も、必ずこの山川の用語集を手元に置いていました。ここに書かれている説明が、受験世界史の基準となる歴史用語の定義になるからです。知らない用語が出てきたら、まずはこの用語集で理解するのがおすすめです。


⑶世界史の資料集でいまイチオシなのが、帝国書院の『タペストリー』です。同社の教科書『新詳世界史B』と同様、「世界システム論」の第一人者である大阪大学の川北稔名誉教授が監修されています。文科省が世界史の学習で重要視している「世界システム論」の理解を促す構成になっています。私も代ゼミで東大クラスの生徒たちを受け持つようになってから知ったのですが、東大合格者を多数輩出する名門校の多くがこの資料集を採用しています。版を多く重ねているだけあって、重要なテーマ史の特集が網羅されており、読み物としても大変充実しています。実際、私もこの『タペストリー』を授業で使いたいと考え、代ゼミの教務部に強く要望し続けてきました。ようやく2019年度から代ゼミの全国の教室で、この『タペストリー』が資料集として採用されています。私は2018年10月末、授業中に大動脈解離で倒れてしまい、私自身がこの資料集を代ゼミの教室で使うことはありませんでしたが、来年から始まる共通テストを考えたとき、代ゼミで使用される資料集が『タペストリー』になって本当に良かったと思っています。共通テストは、センター試験のとき以上に地図や写真などの資料を多用することが予想され、その対策もこの資料集なら万全だからです。

 次におすすめできるのは、浜島書店の『ニューステージ』です。これを採用している高校は多いと思います。私自身も、かつては『ニューステージ』を使っていました。さすがは資料集に定評のある浜島書店。これも完成度の高い、素晴らしい資料集だと思います。


⑷近年、全面改訂して生まれたZ会の『入試に出る世界史B一問一答』がおすすめです。入念な入試問題の出題分析が反映されていて、無駄のない設計になっています。なにより問題文に、実際の入試でよく出題される定番の切り口が選ばれているところが嬉しい。「年表で整理」もよく作り込まれています。時間のある時にじっくりと眺めて、年号とオレンジの用語を覚えていってください。受験生が思っている以上に、重要年号と重要事項を覚える作業は大切です。その際、バラバラに暗記するのではなく、一つのテーマでストーリーとして覚えていくのが効率的です。多くの科目を学ばなくてはならない東大・京大など難関国立大の受験生をはじめ、中堅私大や早慶上智などの難関私大の受験生にもおすすめです。

 次におすすめなのは、学研プラスの『斎藤の世界史B一問一答』です。問題文の下に入るコメントには、歴史上のエピソードや学習のアドバイスが書かれていて、著者の気遣いが詰まった、血の通った一問一答になっています。コメントを読むたびに、より深い理解が促され、世界史の学習を豊かなものにしてくれます。予想問題同業者として共感する用語選択で個人的にも好きな1冊です。網羅的なのですが、細かな用語も多く掲載されているため挫折率が高いと思われます。早稲田や慶應など難関私大を志望する、学習の進んだ受験生におすすめです。


いきなり教科書を読んでも、ほとんどの人は頭に入ってこないと思います。もちろん教科書は完成された最高の教材です。受験生も最終的に学習が進んでいけば、問題演習のたびに該当する部分の教科書の記述をじっくり読み込むことが、とても有意義であることに気づいてくるはずです。とはいえ、初めて、もしくは独学で世界史を学ぼうとする受験生には、山川の『ナビゲーター世界史』をまず読んで欲しいです。このシリーズの誕生は、世界史選択の受験生にとって画期的だったと私は思っています。とても読みやすく、受験で必要な重要事項が網羅されています。その平易で目配りの行き届いた説明は他の追随を許しません。各分野で慎重に最新の学説が反映されているところに山川出版社の底力を感じます。初学者は山川の教科書と用語集、帝国書院の資料集をそろえまずはこの『ナビゲーター世界史』で通史を理解すると良いでしょう。


<特におすすめの新書>
 『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)は、川北稔氏によって平易な言葉で書かれた「世界システム論」の見事な入門書です。

 イギリス中心の世界地図を見て、東の端にあるのが中国のお茶で、西の端にあるのがカリブ海の砂糖。「『砂糖入り紅茶』の朝食は、いわば地球の両側からもちこまれた、二つの食品によって成立しました。いいかえれば、イギリスが世界商業の『中核』の位置をしめることになったからこそ、このようなことが可能になったのです」(p 170)。砂糖入り紅茶が世界史的な観点から見て、大変な飲み物であったことに気づかされるはずです。そして、17世紀後半から19世紀にかけてのイギリスが、世界経済の中心として特別な地位を占めていたことかが分かります。「世界システム論」は共通テストのプレテストで意識的に出題され、近年の東大・京大などの論述問題でも出題が顕著になってきており、これからの受験世界史では、この視点は出題の中心となっていくはずです。

 特にじっくり読み込んで欲しいのが、第3章 砂糖と茶の遭遇第6章 「砂糖のあるところに、奴隷あり」第7章 イギリス風の朝食と「お茶の休み」です。大西洋を中心とした三角貿易カリブ海で黒人奴隷を酷使する奴隷制度、イギリスの労働者階級を生み出した産業革命。これらの歴史用語が「近代世界システム」という観点から一連の出来事として繋がっていきます。17世紀にイギリスの上流階級の「ステイタス・シンボル」だった砂糖入り紅茶が、近代世界システムのはたらきによって、19世紀初めには産業革命期のイギリス都市労働者のシンボルにもなっていく。砂糖入り紅茶が、上流階級の「アフタヌーン・ティー」労働者階級の仕事の中休みとしての「ティー・ブレイク」の二つの意味を持つようになる。

 「砂糖は、主としてカリブ海で生産されましたが、そのための労働力となった黒人奴隷はアフリカから導入されましたし、生産された砂糖のほとんどはヨーロッパで消費されました。ですから、砂糖の歴史は、三つの大陸を同時にみなければわからないのです」(p203)。とても平易な言葉で、「世界システム論」の本質を見事に説明しています。世界史の学習が進んでから再び読み返すと、また新たな発見があるはずです。長年、世界史を教えてきた私も、何度読んでも深く感動し、勉強になる名著。世界史を学ぶすべての高校生におすすめです。

 東大や京大、一橋など最難関の国立大学を受験する世界史選択生で余裕のある人は、川北稔氏の『世界システム論講義』(ちくま学芸文庫)にもチャレンジしてみましょう。少し難しいですが、じっくり時間をかけて読み進める価値があります。


おわりに

 世界史のおすすめ教材について説明してきました。教室や電車内で微妙な教材を使っている受験生を見かけると、良質な教材を知っているだけに、じれったい気持ちになっていました。紹介した「鉄板の世界史教材」が少しでも学習の助けになると嬉しいです。おすすめの新書『砂糖の世界史』を使って、「世界システム論」についても簡単に触れました。覇権国家がオランダ、イギリス、アメリカへと推移するなかで、世界経済が「中核」と「周辺」の間でどのように関係し合い、発展してきたのかは世界史を学ぶ上で重要な視点です。

 世界史と日本史では、どちらが受験で有利な科目でしょうか。この問いはナンセンスです。そんな不公平は入試ではあってはならないからです。日本史と同じ深さで全世界の歴史を学ぶことを受験生に要求するなら、世界史は日本史と比べて、覚えることが多すぎて極端に入試に不利な科目となってしまいます。実際にはそうではありません。世界史の勉強にはコツがありますそれぞれの地域、それぞれの時代で、現代に影響を与えたり、参考になる重要な意義を有する事象が入試で問われています。つまり、世界史は出題されるところが決まっているのです。センター試験や東大の過去問を見れば明らかです。本質的には同じことが繰り返し出題されています世界史はなにが重要なのかを見極める要領の良さが問われている科目と言えるでしょう。そのコツさえ掴めれば、むしろ世界史は短期間で成績を伸ばし、自信を持つきっかけになる科目です。

 私は毎年、代ゼミのサテライン授業の初回に『ベトナム戦争』を扱ってきました。歴史を学ぶ意義を示したかったからです。このnoteでは、私も世界史の講義を展開しています。ベトナム戦争、パレスチナ問題、ロシア革命は特に重要な現代史のテーマ。現代の国際政治を理解する上で、決定的に重要な題材です。世界史を選択するか迷っている高校生、世界史選択の受験生、世界史を学びたい社会人の方々はぜひ、このnoteで私の世界史の授業を体験してみてください。きっと世界史を学ぶ楽しさ、東大や京大の入試問題の素晴らしさを実感できるでしょう。

 世界を旅したり、ニュースを見たり、新聞を読んだり、映画を観たり、美術館に行っても、ふと世界史の授業を思い出すことがあるはずです。これから世界史を学ぶことであなたの視野は広がり、人生は豊かになるでしょう。世界史を学ぶことはあなたの一生の財産になります。最高の教材で、有意義な世界史の学習ができることを心から願っています。


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