マガジンのカバー画像

つれづれ

6
戯言
運営しているクリエイター

記事一覧

珈琲店

柱時計が鳴り、ギィと押し出された平板から小人が飛び降りた。醜怪なこびとは曲がった腰を摩りながら腫れぼったい眼で辺りをぎょろぎょろと見渡す。ふと目が合うと、唾液の溜まったいやらしい口端を少しだけ上げて、小走りでマスターのこめかみの中へ消えて行った。

疲弊

特定の人の悪口を言ったり、人の不幸に好奇の目眼差しを向ける人間が多すぎる

心のどこかで大道芸の失敗を望みながら炎の棒を固唾を飲んで見守るような、そんな周囲の輝いた顔に耐えられない

透明な存在

転校二日目

初めて出逢った時、彼女はトイレの手洗い場で真っ白に手を汚していた

友人が一体なにをしているのか訊くと、その娘はこう答えた

「修正液のかちかちの正体が知りたくて」

私はその一言ですっかり彼女を好きになった

あれから多くの時間が過ぎ去ったが、彼女はいつまでも透明な存在のまま くらげのように漂っている

その様をうっとりと眺める私の脚は

地面から生える蔦に絡まっている

初夏は来ない

繋がりたいとか繋がっていたくないとかそんなことよりも

何もかも捨ててぼろアパートで蝉の声を聴いていたりだとか

空っぽの冷蔵庫を開けてため息ひとつついてまた閉じて

そんな生活をしたりして

誰かの洗濯物を畳むしあわせから遠く離れていたい