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silent frog

#小説 #物語 一匹のカエルがいました。 カエルは深い森の奥、湖のほとりで暮していました。 黄緑色の小さな体に金色の目。森に住む誰もが、雨に濡れてきらきら光るその眼に見惚れました。 カエルの一番の楽しみは唄うこと。晴れた日には湖に映る月を相手に歌います。月はときおり体をふるわせてその歌声に聴き入りました。 また雨の日には、湖に跳ねるしずくと並んで歌います。カエルの歌声は雨音や土と混ざり合い、いっそう美しく夜を奏でるのでした。 ときには、お日様が顔を出すまで歌い続けることもあ

    • カエルに睨まれたヘビ

      #小説 #物語 あるところに、カエルを怖がるヘビがいました。ヘビのいる水槽の向かい側にはカエルの水槽があり、中には大きなウシガエルやたくさんのイボがついたヒキガエルが暮らしていました。 まだほんの子どもだったヘビは、巨大な化け物たちが口々に「やい、おれには毒があるんだぞ。おまえなんかおれさまのこの大きな口で丸呑みにしてやるぞ」とこちらへ向かって叫ぶのが恐ろしくて、毎夜がくがくと震えていました。おかあさんやおとうさんは「ヘビの方がずっと強いのですから大丈夫よ」「ヘビに睨まれ

      • 白い煙突と雲

        #小説 #海外 1.ふしぎな工場 その工場は、町外れの原っぱの真ん中にあった。何を作っている工場なのかを、街の人たちは知らなかった。それなのに誰もそのことを気に留めてはいなかった。原っぱは夏になると背の高い草で覆われる。けれども、その工場の周りだけは不思議といつも整えられていた。いつ誰が整えているのかを知る者もいなかった。 工場はいつも静かだった。煙突からは白い煙が細く立ちのぼり、その先には空があった。煙は青空に達するとさまざまな形の雲に姿を変え、子どもたちは「さくらんぼだ

        • 初夏は来ない

          繋がりたいとか繋がっていたくないとかそんなことよりも 何もかも捨ててぼろアパートで蝉の声を聴いていたりだとか 空っぽの冷蔵庫を開けてため息ひとつついてまた閉じて そんな生活をしたりして 誰かの洗濯物を畳むしあわせから遠く離れていたい

        silent frog

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          珈琲店

          柱時計が鳴り、ギィと押し出された平板から小人が飛び降りた。醜怪なこびとは曲がった腰を摩りながら腫れぼったい眼で辺りをぎょろぎょろと見渡す。ふと目が合うと、唾液の溜まったいやらしい口端を少しだけ上げて、小走りでマスターのこめかみの中へ消えて行った。

          珈琲店

          透明な存在

          転校二日目 初めて出逢った時、彼女はトイレの手洗い場で真っ白に手を汚していた 友人が一体なにをしているのか訊くと、その娘はこう答えた 「修正液のかちかちの正体が知りたくて」 私はその一言ですっかり彼女を好きになった あれから多くの時間が過ぎ去ったが、彼女はいつまでも透明な存在のまま くらげのように漂っている その様をうっとりと眺める私の脚は 地面から生える蔦に絡まっている

          透明な存在

          疲弊

          特定の人の悪口を言ったり、人の不幸に好奇の目眼差しを向ける人間が多すぎる 心のどこかで大道芸の失敗を望みながら炎の棒を固唾を飲んで見守るような、そんな周囲の輝いた顔に耐えられない