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【体験談】フライドチキン君【ダメンズ①】

初めてできた念願の彼氏。しかし彼は当時愛読していた「りぼん」にも「花とゆめ」にも出てこないような冴えない男子だった。

何故好きになったのだろう?イケメンでもなかった。

何処が良かったのだろう?3年間野球部のベンチだった。

だけど私にはとても格好良くて、初めて「異性」を意識したのだ。今思うと、唯一のモテ要素は素朴で長身だったことくらいか。隣の席になって、何かと優しくてテレ屋で、だけど三白眼なので黙って見つめられるとなんだかミステリアスに見えた。(アホか)

中学3年の席替えで初めて隣の席になったF君。教科書の貸し借りなんかで次第に仲良くなった。彼から話があると言われて、放課後教室の後ろの方で告白された。男気に溢れていた。面と向かって「好きです」ではなかったが、「好きなんだけど」と言われた。だけど何だと今の話なら切り返すが、当時の私は少女漫画で夢見た告白シーンに胸を踊らせていたのでなんてことないハッピーハッピーハッピーセンキュー。「私も」なんて言っちゃって、あらこれが俗に言うお付き合い?てな具合で始まった交際。

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中学生のお付き合いって私の頃はキスとかなかった。(私だけ?)手を繋ぐので精一杯だった(私だけ?)興味はあったけどね(だよね?)放課後一緒に帰るだけ。ただ一緒に帰るだけ。人が居なくなった道だけ手を繋ぐ。それだけでドキドキして、何か悪いことをしてるような気持ちも感じてたと思う。まだ携帯は完全に普及してなくて、クラスでも半数くらいしか持ってない時代だったから、家の電話で電話しあった。

ある夜、いつものようにF君から電話があった。少し「お付き合い」にもこなれてきたのか、段々と言うことがロマンチスト(寒く)になってきた。そんな彼からの今宵の電話、外からだった。子機で。彼曰く「今日は歩きたい気分だった」らしい。案の定「月が綺麗だよ」と言う言葉と共に切れた。あの時私もバカで、子機を外に持ち出したら切れるって知らなかったら、今も彼と付き合っていたのかな…。

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そこからは凄まじい勢いで私の体が急速冷凍していった。一つダメになると全部ダメになるタイプだったか…すまんF君。翌日バツの悪そうにしていた姿さえ、興醒めで、冷たい態度を取ってしまった気がする。結局、その後も何となく疎遠になって「別れましょう」という言葉は使わなかったように思う。

人伝てで聞いた話では、私にフラれたヤケクソで、その後5人以上の女の子に片っ端から告白しては玉砕していったという。最終的には、私に一番近い位置にいた女の子と付き合ってしまった。なんてことだ。

だけども多分当時の彼は、当てつけなんて出来るほど恋愛を知らなかった素朴な少年だ。きっと私と付き合ったことで知った、自分の新たな一面であるロマンチストな部分を放出する場を求め彷徨っていたに違いない。私がジュディオング程の大海原だったら、今も彼と付き合っていたのかしら…。

しかしながら彼のロマンチックな人生設計にも「受験」と言う名の現実は迫る。程なくして新彼女とも別れ、彼は荒れ狂い、なんと登下校中に煙草を吸ってしまい、もれなく野球部を退部処分とされた。(戦力に損失はない)

私と同じ高校を夢見ていたF君であったが、成績は下がり続け、道は別れていく。私は志望校へ、彼は併願校へと路を分かつ。さらば、私の初めての青春よ。

次第に私の生活からF君が消えていった頃、母からふと言われた。

F君、歩きながらケンタッキーフライドチキン食べてたよ。」食べ盛りなのは分かるけど、彼氏なんだから言っておきな〜とのこと。

月からのチキン。月とチッキン。ふぅ。やれやれ、とんでもないギャップをまざまざと見せてくれた私の初めての男よ。あなたから、私のダメンズ旅が始まるのよ。あなたが私の旅の汽笛。出発の合図。今だからと、歯に衣着せ図にありのまま書いてしまってごめんなさい。忖度なしに書き連ねてしまったわ。でも、私たち、可愛いカップルだったわね?


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