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1994年 SideA-8「アリよさらば/矢沢永吉」

秋元康作詞 矢沢永吉作曲

・「アリよさらば」(TBS系 1994/4/15~7/1)主題歌

 TBS系金曜9時枠4月クールドラマ主題歌。「アリよさらば」は、矢沢永吉初のドラマ主演作。90年代初頭ならではの画期的な企画であり、ドラマ史上一・二を争う異色の配役であった。TBSの学園ドラマがミュージシャンを教師役に起用するのは最早お家芸になっていた感があるが、それでも矢沢永吉の起用には驚かされた。しかしこの起用は、おそらくそうしたTBS学園ドラマの伝統の文脈からではなく、前年7月の「課長サンの厄年」へのショーケンこと萩原健一起用の成功が下敷きになっていたと思う。

 ショーケンがサントリー「モルツ」のCMに出演して「うまいんだなこれが」と言っていたのとちょうど同じ1992年ころ、同じサントリーの缶コーヒー「BOSS」のCMに矢沢永吉が出演、控えめなサラリーマンを演じて大きな話題となっていた。矢沢永吉を教師役にという発想の大元は、間違いなくこのCMであろう。逆に言えば矢沢に対してCM通りのさえないサラリーマン役でなく(つまり「日曜劇場」枠ではなく)学園ドラマの香りが色濃く漂う金曜9時枠で昆虫好きの地味な生物教師役を振ったところに、秋元康&遠藤環コンビのオリジナリティーはあったと思う。

 いずれにしても、それまでの“E.YAZAWA”的なイメージを自ら崩すような「BOSS」CMからドラマ出演に至るこの時期の一連の活動が、矢沢永吉の全キャリアにおいて大きな節目になったことは間違いがない。これがあったことでその後の展開の自由度はとてつもなく上がったはずだ。こういう類の軌道修正は自分からやろうと思ってもなかなかできないし、そのすべてを彼が考えてやっているわけではないだろうが、無理なくそういうカードを引いてくる矢沢の勘の良さというか、運の強さはさすがである。

 主題歌は、こういう流れなので当然秋元康が作詞。一般論としてならともかく、教師目線と解釈すると役柄とは全く異なる上から目線のメッセージソングである。その意味では矢沢永吉にはあまりないタイプのナンバー。今もってCDシングルとしては自己最多の売り上げを誇り、アナログ時代を含めても「時間よ止まれ」に次ぐ自身2番目のヒットソングである。矢沢が自分の書いた詞を歌っているというのは秋元康のキャリアにとっても大きな勲章であろう。

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