【みやぎ里みちサイクリング】 ブロンプトンで若柳と伊豆沼を走った話
はじめに
11月も半ばを過ぎ、今シーズンの東北でサイクリングを楽しめる季節もあとわずかだ。
今年の走り納めになるかもしれないなと思いつつ、今回訪れたのは宮城県北部、栗原市の伊豆沼だ。
秋になると北米やシベリアからガンや白鳥などの渡り鳥が大挙して渡ってくる越冬地、かつラムサール条約に登録された国際的な自然保護区として知られている。
ここの渡り鳥の何がすごいといってその数だ。至るところにいる。とくに夕方、文字通り空を埋め尽くす数のガンがねぐらに戻る自然のセレモニーは「マガンのねぐら入り」として人気という。
沼周辺はもとより、少し離れた若柳の町なかでもしきりに彼らの鳴き声が響いている。歩いていると真上から「クアっクアッ」とか「ほえー」とか大きな声で怒鳴り鳴かれてびっくりすることもしばしばだ。
伊豆沼の外周には道路が巡っておりサイクリングを楽しむこともできる。とくに南岸の道はクルマが入ってこず、水面にもより近いので、より静かな環境で身近に水鳥のいる風景に浸ることができる。
これまで何度か訪れて走っているが、前回来てからはもう3年ほど経っているだろうか。
今回は用事があって滞在していたホテルのある若柳の町から走り出す。
国道の裏を並行する集落道はクルマもほとんど通らずいい道だ。これで東に向かってから南に折れて田んぼの中を伊豆沼に向かう。
伊豆沼へ
この辺りは小さな起伏のある農地が広がる箱庭のような風景だ。大まかに見ると平坦な景色だが、小さな丘を二度越えたりするのでローギアに入れる場面も生じる。
丘を下ると伊豆沼の北岸を行く道に行き当たる。
しばらく車道を走ってから沼の縁をたどる道が左に岐れる。ここから先は車のほとんど通らない静かな道となる…はずだったのだが、今回来てみたら沼に注ぐ川の一つを渡る小さな橋が架け替え工事中で通行止めになっており、ダートの農道と車道での迂回を余儀なくされた。
迂回ルートは伊豆沼の隣のもう一つの渡り鳥の楽園である内沼のほとり、栗原市サンクチュアリセンターに至る。伊豆沼の岸辺はハスの群落がいたるところに生い茂ってバリアを成しているのに対し、内沼は水際まで徒歩で入ることができ、水鳥に餌をあげることもできる。
伊豆沼南岸の解脱トレイル
その先、2つの沼を結ぶ水路の南側につけられた細い道に導かれて無人地帯に入っていく。伊豆沼の南岸だ。この先の区間が早くも本日のサイクリングにおけるハイライトなのである。
この辺り通るクルマといえばは地元の農家の軽トラぐらい(というか軽トラ以外は通れないような道)で、水鳥の鳴き声に包まれたウィルダネス気分を存分に味わえる。
向かって左手の水面には、ぷかぷか呑気そうに浮かんで時折頭を潜らせては何か食べている一群の鳥たちがいる。右手の田んぼの一群は寝そべって休んでいる。みんな暖かい国にのんびり保養に来ている休暇の人たちという雰囲気。無為徒食というか、働いてない感じがいい。あやかりたいと思う。グレーの小ぶりな白鳥たちは寒い国で育って初めて日本に渡ってきた子どもたちだ。
さらに進むと、途中にコンクリのバリケードが置かれている。ここからは自転車と歩行者しか進入できないワイルドなダート区間だ。
ここまで歩いてくる人などいないから完全な無人地帯である。空と水辺と鳥たちの声だけに包まれる。俗世から隔絶されたひととき。
その先は再び舗装路となるが、交通のわずかな静かな道はJR新田駅近くまで続く。
駅に近づくと次第に人の営みの気配が戻ってくる。付近にはもう1つのサンクチュアリセンターや探鳥台、産直や食事処などがあり、伊豆沼観光のエントランスとなっているのだ。
ここからはしばらく線路沿いの県道をクルマに注意しながら走る。1kmばかりの辛抱だ。
ほどなく踏切を渡り、伊豆沼の北岸沿いの農道に入る。ふたたび静かな道だ。
以前はダートの区間もあったが最近全面舗装された。この道をたどっていくとめでたく伊豆沼一周が完成する。
丘の上のカフェ
北岸の、沼を見下ろす高台に何やら洒落たコテージ風の家が建っているのが見える。あんなところに住んだら気分がいいだろうなと思っていたら入り口の看板があった。
果たしてそれはジャズカフェであった。ライヴもやっているらしい。マスターは定年後に東京から移住した人だという。オーディオ機器もすごそうだ。いつか訪ねてみたい。
若柳の町に戻るルートは川や水路に沿った農道がおもしろい。静かな道沿いの集落、そしてして田んぼを抜けていくその折々に水鳥たちの賑やかな鳴き声が追いかけてくる。
マガンのねぐら入り
街に戻った夕まぐれ時、近くのスーパーに買い出しに来てみたら頭上をおびただしい数の雁の群れがけたたましく鳴き交わしながら伊豆沼の方に飛び去って行くのに出くわした。
そうかこれがマガンのねぐら入りか。
急いでスマホを取り出して動画を撮ろうとしたが、背景がヨークベニマルではあまり面白くない。そこまで歩いてくる途中に田んぼの夕暮れを見渡せる眺めの良い場所があったのを思い出し、そこまでダッシュで戻る。しかしその時にはもう群れは彼方に飛び去ってしまっていた。
伊豆沼一周を主眼とするならば、JR新田駅付近か内沼のサンクチュアリセンターにクルマを停めて走り出すのがよい。
JR新田駅は輪行で訪れる際の起点でもある。
若柳の宿
用事があって宿泊したホテルがアネックスホテルアベ。3階建ての小綺麗で小さなホテルで、以前から何度か泊まっている。
3年ぶりぐらいで泊まったら最近リフォームされてさらにこぎれいになった(そして値段も上がったが)。
アネックスというからには本体はどこにあるのかというと近くの老舗、阿部旅館である。
ひさびさに来てみたら入り口にクロスバイクが吊るしてあるので驚いた。ジャイアントのエスケイプだ。色違いで4台ある。この町を訪れる客に伊豆沼含めたサイクリングの機会を提供するレンタルバイクだ。
ここにはそのほかにも、自転車をそのまま持ち込める部屋などもあり、サイクリストにアピールを強めている宿である。おすすめしたい。インドア派にはマンガもたくさんある。わたしもこの宿でウシジマくんやナニワ金融道を読破した。
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