思い出話その5・ムニエル


大変に恥ずかしい話だけれど、わたしは食べ物の好き嫌いがとても多い子どもだった。
ごはんが楽しみだ!とか、今日の給食は何かな?とか、完食、おかわり、そういう記憶がほぼ、ない。

そんなわたしがたぶん、人生で初めておかわりした食べもの、ムニエル。

母の焼いた、白い切り身にこんがりぱりぱり、黄金のきらきら。バターのにおい、ほんのりレモンのにおい。
祖母たちの部屋の、和室の丸い机の上で、ママ、これもう1つ食べたい!
ええ!?って、食べれるの?って、驚く母。うれしそうな母。
マイ、ファースト、ムニエル。
それが鱈だったか鰈だったか、魚の種類は忘れてしまったけれど。

お肉が苦手。しかし野菜もほとんどが苦手。丼物も麺類も。甘すぎるものも、塩っぱい物も。
果たして一体なにを食べていたのか、料理をする母に心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、いつだか聞いてみた、わたしはなにが好きだったの?

「魚。」

だ、そうで。
たしかに。
祖父が、自分で釣ってきた魚を捌いて飲んでいる夕方に、いそいそと隣に座り、この人の傍にいるのが一番美味しいものが出てくる。とは、子どもながらにしっかり知っていたなぁ。

お刺身と、鯛や鮎の塩焼き。ししゃも。昨日の残りの漬けになったハマチや鮪。鯵の揚げたの。鰻の白焼き。それから、ちりめんと酢橘かけたご飯。
…まぁ、なんて渋いのかしら。の、そこに初めてやってきた、黄金の、ムニエル。

だいたい、魚とバター、って。
あぁ、そして、その横の、バターの味がついたじゃがいもとほうれん草…。

今はお肉も野菜も、ほとんどなんでも食べられて、苦手なのは内臓くらい。
日々食べることは楽しみで、昨日もしっかり、ごはんをおかわりした。

そんなわたしは三月生まれです。魚座です。

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