メレンゲ

はじめて自分でお菓子を作ろうと思ったのは、小学3年の冬。

図書室の本に載っていた、くまさんの形のガトーショコラ。
どうしてもあの可愛いケーキが焼きたくて、アルミホイルで型らしきものを作り、母のいない夕方に、本を見ながら見よう見まねに混ぜて焼いた。

でもガトーショコラ、にはなってくれなくて、焼きあがったのは、くまさんの形の、ぺらぺらに茶色く巨大なクッキーのようなかたまり。

あの落胆といったら。
ダイニングの左端の椅子の前で、ちょっぴり焦げたにおい、ちっともかわいくないくまさん。
あぁもう母が帰ってきてしまう、の、暗くなっていく窓の外。

そしてあとになって知った、メレンゲ。
くまさんになる前の粉や液は全てイラストで描かれたその本で、わたしはメレンゲを完全にすっとばして、ただ普通に卵白を数回混ぜただけで焼いてしまった。

ふわふわのメレンゲ。
卵とは泡立てるとあんな風になるなんて、どれほど驚いたかしら、と。
ごくありふれた失敗の話。
いまでも思い出す、甘いお菓子の苦い思い出。

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