【詩】通り過ぎた香気
有名ブランド店が立ち並ぶ大通り
ウインドウを横目に見ながら
少しだけ時間を気にして歩いていた
今日は面接の日だ
昨日まで何度も練習したから大丈夫
それでもまた
頭の中で繰り返し繰り返し
シミュレーションしていた
完璧...絶対に上手くいく
時々すれ違う人のことなど気にかけていられない
よくありがちなこの街のグレーの空だが
溢れる街のエナジーが
街全体を灰色に染めることはない
突然頭の中に艶かしい記憶が飛び込んできた
あ、この香り...
「ねえ、抱いてもいいかな。」
彼は耳元でそう呟いて私の耳に唇を寄せた
私は何も言わずに体を委ねた
やがて彼がいつもつけている香水の香りが
部屋も私も全てを包み込んだ
彼の汗ばんだ肌と体温を感じながら
私はどこまでも女になっていた
それから暫くの間私はあの香りを追った
来る日も来る日も
またあの香りに包まれたくて
そしてようやくまた彼を見つけた時
彼はあの女(ひと)と一緒だった
思わず振り返ると
背の高い金髪の外国人の後ろ姿が見えた
「そうよね、ここにいるわけない
バッカみたい」
あの香りが遠ざかる
溢れる街のエナジーの中に溶けてゆく
街全体を灰色に染めることもなく
私は前を向いて歩き続けた
内容は全て妄想です。