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2024年1月の記事一覧

宝物箱

宝物箱

きょうもひどいいちにちだった。

そう思いながら、男の子は
夜更けに宝物箱の整理をした。
みんなに点呼をとり、
ひとまず安心した。

男の子の暮らす世界の果ての
ある街では、誰もが宝物箱を
つくっていた。

とても親しくなるとそっと
お互いの宝物箱を見せ合った。

片隅のソファ

片隅のソファ

#冬の辺境と冬の旅人

旅人は頼りになる防寒具で身を守り、あらゆる辺境を旅した。疲れると、残った魔法で鞄から小屋を出し、片隅のソファでココアを飲んだ。吹雪の夜、愛猫がうなされているので、そばにいてしばらくあたまを撫でた。ささやき声で寝かせうたをうたった。愛猫はゴロゴロ言い始めた。

譜面から溢れ出す。

譜面から溢れ出す。

#冬の辺境の冬の旅人

旅人は辺境の村のポトフ屋にいた。クマのような男が入ってきて、店の隅で、鞄から、どっさりと譜面を出し、ギターでうたをうたいはじめた。譜面から、花や雪や海峡や夜明けや鳥や精霊が溢れ出した。男はうたい終えると、溢れ出したものたちを鞄にぎゅうと押し込み出て行ってた。

自分の無限を見に行くために。

自分の無限を見に行くために。

#冬の辺境の冬の旅人

旅人は厳しい吹雪の辺境をただ進んだ。厳しさは、身の程がよくわかった。厳しさに耐えれるよう、身体とこころと自らの幻想をあたためた。鞄の中の小屋でしっかり休み、しっかり進んだ。自分の無限を見に行くために。

きみの幻想が試される。

きみの幻想が試される。

詩の学校でチェゲバラ先生が言った。言っとくけど、これは戦いさ。しかもゲリラ戦。少数にして窮地。だからこそ個々が重要。そして、これは長期戦だせ。だから、試されるね、きみの信じる心が。試されるね、きみの幻想が。

スピードスイッチ。

スピードスイッチ。

世界の果てのある国では、情報の、生活の、思考のスピードが上がりすぎていた。みんなせっかちになり、あせっていて、すぐに絶望した。そこで、神様がスイッチをひねり、その国のスピードを落とした。その国のひとたちは、我に帰り、ゆっくり歩き、すぐに絶望しなくなった。

「美しい本」

「美しい本」

「美しい本」

世界の果てのある国では、美しい本をつくることが義務だった。下手でも時間がかかってもよかった。そのひとらしければ、美しいと認定された。美しい本をつくろうとしないひとは罰せられた。ひとが亡くなると、つくった美しい本が森の公園の書斎に並んだ。鳥と子供らの声に囲まれて。

もっと意味ないことにまじめに取り組まないと。

もっと意味ないことにまじめに取り組まないと。

#大阪のおばちゃんねこ  が言った。あのー、まじめに取り組んでいっぱいになってできひん、ってそれ、まじめやないで。たまにてきとーで意味ないことして、あたまからっぽにして、また続けることが、まじめや。もっとまじめに意味ないことにとりくまなあかん。暑いから日陰来たわ。。

ダメなのまま、得意なことを。

ダメなのまま、得意なことを。

詩の学校で、パブロピカソ先生が言った。芸術家は、他ができなくて、それだけが秀でていた奴らさ。誰でも、得意なことと不得意なことがある。きみはオール5でなくていい。ダメダメのまま、得意なことをし続けるのさ。誰かを好きになるのもオール5でなく、ダメだけどここはいい、って好きになるだろ。

やらないだけで、自分を嫌っていた。

やらないだけで、自分を嫌っていた。

きつねは普通のことができなかった。部屋は汚れ、そんな自分をだめな奴、世界に嫌われてる、と思った。ある日、風呂場を掃除した。汚れは簡単に落ちた。やらないだけだった。落ちにくいものも磨いていると落ちた。世界が輝き微笑みかけた。自分が少し好きになった。やらないだけで自分を嫌っていた。