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「笛吹童子」

その長髪の童子は
強い風に吹かれて
悲しい笛を吹く。

悲しい笛色に誘われ
悲しみに浸る人が導かれる
童子はその人を悲しみが溢れる
悲しみと隔離された世界へと拐かす

私の目の前で
髪を振り乱しながら
童子が笛を吹いている
曇天模様の突風の中で
童子は笛を吹いている

「晴れる時には楽になるよ」
「晴れる時には新しい世界だよ」
「晴れる時には七色の明日に微笑むよ」
-だから、こっちへおいでよ。

私は童子に拐かされそうになっている
その世界へ行ってしまえば、
この悲しみから解放されると
勝手に思い込んでいるから。

でも、その童子は知っている。
私が童子が必要としなくなった時
それが真の解放である事を。

「何故君は此処へ来ないの?」
「何故君は……」

童子は囁く。
君は何度も泣いたじゃないか
枯れる様に泣いたじゃないか
刻むように泣いたじゃないか
だからもう、泣かないよね。

童子は知っている。
悲しみに苛まれた誰かを
見つけた時に現れて
笛を吹き、その人が生きた記憶を
私が悲しみを追い抜いた時に
どんな感情になっているかを
だから、誘っても無理強いはしない。

「そんな君に、会えて良かった。」

童子からこの言葉を頂きたくて
私は未だ息をする
私は未だ鼓動を止めぬ

私は見たいのだ
去り際の童子の表情を
少し寂しそうで、
少し嬉しそうな、
そんな童子の表情を

-この笛は要らないよね。
-僕はもう要らないよね。

この言葉を与えて貰おう
そして、童子に感謝しながら
さよならを、告げよう。


既に解散してしまったバンド、
「Suicide Ali」の「笛吹童子」の歌詞を
オマージュして、というか自己解釈して
この文章を綴らせて頂きました。
私は今まさに童子と戯れているのです。
もし彼らがまた舞台に立つ時があれば、
その時はその光景を焼き付けたいですね。

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