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SS12

 久々のSS。先輩から追加のお題を貰ったので、それも含めて書いてみようかと。さーて、満足してもらえるかなぁ。


SS12「アオハル」

 深い溜息を吐き散らした。今日もう何度目だろう。
 陸上競技場を借りて、素晴らしい環境で走る機会だった。しかも、土曜日丸一日。普段の学校のグラウンドで走るのと比べたら雲泥の差だ。今日という日を凄く楽しみにしていたのに。全ては雨のせいだ。
 陸上部所属・短距離選手の俺は、自分の代では俗に言う「エース」という奴である。それは自他共に認めている。先輩達とも張れるくらい、短距離には自信を持っていた。先輩達が引退し、短距離の部で部長を背負い、同級生に喝を入れ、後輩達の見本となれるように、精一杯頑張ってきた。自信を持って、「俺は頑張っている」と言えるくらい。
 そして楽しみにしていた当日。午前中は、自己ベストに迫る勢いの走りができた。満足感に満ち溢れていた。しかし、十一時頃にゲリラ豪雨が降り、練習が一時中断になり、前倒しで昼食を食べた。一時頃には雨は止んで太陽が顔を出し、グラウンドもある程度乾いていた。そして午後の練習に移ったが、カーブを曲がるところで微かに残っていた雨水で滑って派手に転倒してしまい、足を怪我してしまった。軽傷だったが、おそらく一週間は安静にしておくべきだろう。一つ後輩の女子マネージャーに応急手当をしてもらい、明日病院に行くことにした。午後はメンバーへのアドバイスを主軸に移行したが、走りたくて仕方なかった。部員が一生懸命走る姿を見る度に、溜息が出た。俺も走れたらなぁ、と。
 練習後、帰るためにモノレールの駅へ向かったが、部員達を帰して一人競技場のベンチで佇んでいた。炭酸飲料を流し込み、少しでも気を紛らそうとしたが、全然紛れてくれなかった。また雨も降りだした。傘を開き、雨を凌ぎ、塞ぎ込んだ。たかが練習といえど、自分の走りに磨きをかけるチャンスを逃してしまったことはかなりショックだった。母に「帰り少し遅れる」とLINEを送り、黄昏の時間を過ごしていた。
 ぼーっと競技場を眺めていた。どれくらい時間が過ぎただろう。八月なのにもう薄暗い。流石に帰ろうと思い、肉体的にも精神的にも重い足取りで駅に向かった。
 モノレールを待っていると、見知った顔が歩いてきた。マネージャーだった。何故この時間に?と思ったが、雨の所為だろう。
「お疲れさん。」
「えっ、先輩?お疲れ様です!何でこんな時間に?」
「こっちの台詞だよ。雨降ったから?」
「そうです。また降ってきたので、そこのモールでウィンドウショッピングして帰ってきました。」
 楽しそうだなぁ、と素直に思ってしまった。こっちは凹んでいるというのに。ちょうどモノレールが来たので、二人で乗った。帰る方向は同じで、席も空いていた。マネージャーはちょこんと、俺の隣に座ってきた。
「先輩、足大丈夫ですか…?」
「まぁ大したことはないだろうけど、念の為にしばらく見学かな。走りたくて仕方ねぇけどさ。」
「そうですよね…。先輩の走ってる姿、誰よりも格好いいですもん。」
 聞き流しかけたが、とっても嬉しいことを言ってくれるではないか。
「そう?何か照れるな。ありがとねん。」
「いえいえ、こちらこそ引っ張ってもらってありがとうですよ。」
 不思議な時間だった。凹んでいたのが遥か昔のように感じられた。言葉ひとつで、こんなに気持ちって変わるもんなんだな。
 降りる駅に着いた。マネージャーの駅はまだ先だった。「お疲れ」を交わし合って、モノレールを降りた。扉が閉まり、手を振って見送った。マネージャーの口が開いた。口パクで声は出していないだろうけど、四文字だったことは伝わった。そして、その言葉が何だったのかもほんのり伝わってしまった。
 家に帰り、親に怪我をしたこと、明日病院に連れて行って欲しいことを伝えた。既に顧問の先生から聞いていたようで、もう予約してくれていた。晩御飯を食べ、風呂に入り、痛む足を優しく洗った。浴槽にゆっくりと浸かっていると、午前中走った分と午後凹んだ分の疲れが一気に来た。もう寝るか。歯を磨きながら、モノレールでの出来事を思い出している自分がいた。次会った時に、何と声を掛けようか。何と声を掛けられるだろうか。何となく、楽しみな自分がいた。歯を磨き終え、排水口に今日の鬱憤をうがいと一緒に吐き散らしてやった。
 さっさと治して、俺の走る姿を見せてやろう。「一番格好良い」なんて、俺にとって最高の褒め言葉だ。あの子に早く見せたい、と思う自分がいるのも確かだ。この気持ちは何だろうか。のんびり考えていこう。俺の「青春」は、まだ始まったばかり。


 さて、先輩からお題を貰ったのは「スポーツ系。」やっぱり、俺が書くとどうしてもダークな内容が入ってきちゃうね。

 さて、前回のキーワードは、

「一昨日」「モニタールーム」「鎖骨」

でした。先輩は当てるのに苦労してましたね。笑
 限界ヲタクの俺としては、二つは分かりやすいな~と思ってたんですが、同じ土俵だと逆に分かりづらかったみたいですな。

 さて、今回の一曲。

 ムックの中で多分一番知名度高いであろう曲。やっぱり、アルバム版のイントロが素敵過ぎてこっちにしました。サブスクとかやってる人は是非、アルバム版と聴き比べてみてくださいな。

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