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渦中から君へ2

2012年の夏、北欧を旅した。

コペンハーゲンでの約一月の滞在を経て、電車でスウェーデンへと渡り、長距離バスでオスロへ。そこからフィヨルドを周遊する電車の切符を手に入れて、なんとなくずっと憧れていたフィヨルドを訪れることとなった。

フィヨルドの何にそんなに憧れていたのか。たぶんその雄大な雰囲気だろうと思う。だってそこはかつて巨大な氷河が削ってできた地形だと言うのだが、いまや深くえぐられた大地を豊かな水が満たすばかりだ。両岸を切り立った崖に守られ、静まり返った水の上をなんの心配もなく観光船が往来している。過去に発揮されたであろう荒々しい自然の力と、現在のフィヨルドの持つ静謐さ。そのコントラストがなんとも心を捉えていたのかもしれない。
というのは後付けで、単純に写真で見たそれが綺麗だったという話なのかもしれない。

なんでフィヨルドの話なんかしているのかと言うと、アナ雪2を見たからなのだった。レンタルがはじまったのでみおさんと一緒におうちで観賞した。君もそろそろアナ雪くらいは一緒に楽しめるかと期待したのだが、「ほらオラフだよ」とか「スヴェンかわいいね」とか言ってみても反応は薄く、君はiPadでYouTubeの動画を見ていた。一作目ではあまり感じなかったのだが、この2作目は全体の北欧感、もっというとノルウェイ感が濃くてアナたちの住むアレンデールのお城を見て「は!スターヴチャーチじゃん!」と思ったりしただった。

スターヴチャーチはノルウェイに残る木造の教会で、現存するものはごくわずか。ぼくはフィヨルド観光について調べているときにその存在を知り、行ってみたいと思った。フィヨルドの名所巡りなら、お得な周遊切符で簡単に回れるのだが、スターヴチャーチはそういったものには含まれず、観光コースから外れた地元の路線バスで回る必要があった。

ぼくは宿で出会ったメキシコ人建築家ダニエルと2人で2つのスターヴチャーチを回った。路線バスに乗れずにヒッチハイクをし、乗せてもらった車の中に、ダニエルは大事なスケッチブックを置き忘れてきた。

スターヴチャーチはただ木造の教会というのではなく、五重塔を四角錐の中に押し込んだような独特な形が印象的で、湿った黒いボディが切り立ったフィヨルドの緑に映える。

アレンデールのエルサの住む城はカラーこそ漆黒ではないが、画像を比較すればスターヴチャーチをデザインの参考にしているのは間違いないと思う。

もう8年も前になるわけだけど、そのころには娘を持つ日がくることなど想像もしてなかった。ダニエルは元気かな。

さて君の最近の流行りはぬいぐるみたちの寝かしつけ。持っているぬいぐるみたちをベッドやソファの上に横一列に並べ、毛布などをかける。寝つきが悪い子は抱き上げて左右に激しく揺さぶってあげている。一人でやっていることもあるけれど、ぼくやみおさんに見学してほしいことが多く、しかも座る位置なども細かく指定してくるので若干面倒くさい。「わーねんね上手だね」と声をかけながらそのテクニックを堪能させてもらっている。
日々新しいものの名前を覚えていっている君は、ブロッコリーだのごみ収集車だの、わりと長いやつを好んで口にしてる気がする。
いつかアナ雪を一緒に見るときには、北欧旅行がどんなだったかを話したいな。

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