見出し画像

だから話すし書いている

吾輩は言語聴覚士である。名前はまだ( 名乗るほどの者では )ない。
……まだ、という表現は適切ではないかも。きっと今後もずっとそう。


そんなことをつい最近思ったのは、友人からの誘いがキッカケだった。
友人がやっているPodcastで、仕事の話をしてみないかと持ちかけられたのだ。もともと親しかった方と二人で、毎回違う「働く人」を招き、働くことについて聴く番組を始めたのだという。長い付き合いの中で、年上と思えぬほどフランクに話すようになってしまった人からの誘いだ。声をかけてもらったことが嬉しくて、二つ返事で快諾した。


とはいえ、引き受けたはいいものの急に不安になる。


懸念事項の一つは、自分が本当に話すのが下手であるということ。もう一つは、自分が「言語聴覚士」として何かを話していいのかしら、ということだった。


文を書くのが好きだ。読むことも、人の話を聞くことも等しく好きである。けれど、話すことは得意ではない。話すことというべきか、パッと言葉を選ぶことが苦手というべきか。会話は好きだけど、プレゼンしたり何かを誰かに説明したりするのが特に苦手である。
辿々しくなってしまうというより、ワーーーッと話して誤魔化しているうちに着地できなくなってしまうのだ。新人の頃に上司から「お前は話すのが下手( 意訳 )」と言われたことがあるくらい。だから今でも、人前で何かを話すときは要点をまとめたメモが無いと話せない。話し終えてもなお、しばらく手が震えることすらある。


そんな性格や性質だからか、Podcastの収録自体は友人のサポートによりなんとか終えたものの、帰り道に色々なことを考えた。



わたしにとって、働くって、何だろう。



これはまさしく彼らが番組で掲げているテーマでもある。「言語聴覚士のあおいさん」として何かを人に話すのは初めての経験だった。ここで好き勝手仕事にまつわる思い出を書き散らすことこそあれど、「言語聴覚士が教える○○」みたいなものを書いたことはない。今のところ書く予定もない。

それは多分、自分が発信することに自信がないからだと思う。
新卒から今の職場でずっと働いているものだから、「一般的な」言語聴覚士が、病院が、何をどうしているのかを知らないのである。
学生の頃に実習で行った病院も、父が働く病院も、大学時代の同期が働いている病院も、ふんわりとは知っている。けれどあくまで本当にふんわりとなので、何が一般的かは分からない。他の病院より自由度が高い病院で働いている自覚はある。
「患者さんの利益になるならなんでも」という前提の当院がやっていることが正しいのかは分からない。井の中の蛙だから。海というものがあると知ってはいるけれど、わたしは小さな井戸の中でしか生きていない。



🐟あまりにも長いので、ここで一度宣伝🐟

こちらのPodcastにお邪魔しました〜!





Podcastで上手く話せていた自信がないので、「わたしは」という主語を全面に押し出しながら、ちょっと細かく自分の仕事の話をする。他の方々のことは詳しく知らないので、個人の見解として理解してほしい。


回復期と呼ばれる立ち位置にあたる病院で、言語聴覚士という仕事をしている。主にコミュニケーションと食事に関わるリハビリをする専門職だ。
言語聴覚士という仕事の領域は広い。大学の同期たちが言語聴覚士として働いている分野でいうと、お子さんの発達に関わる療育センター/補聴器の会社/大学病院の耳鼻科/病院/介護保険施設など多岐にわたる。


基本的にご一緒するのは、脳血管疾患( 脳梗塞、脳出血など )と、廃用症候群( 何らかの理由で寝たきりの期間が長く、全身の筋力などが低下してしまった場合のことを指します。近年ではコロナ後の方が増えました ) の方。



彼らに対して、

①評価 : お話をしたり、必要に応じて検査にご協力いただいたりする。

②分析 : 検査結果を受けて、何が大変なのか?どこが強みで、どこを伸ばすと良さそうか?を考える。そして訓練を立案する。

③訓練 : 一般的に想像する「リハビリ」がここ。
言語聴覚士だと、プリント課題を使ったり、食事に関わる筋力の向上を図ったりする。

④支援 : 退院先をどうするか?そのためにどんな社会福祉サービスを導入すべきか?ご退院後の生活に何がどうできるようになる必要があるか?検討したり、ご家族ほか関係者各位と相談したり。
病院外の担当者の方( 今後お世話になるケアマネジャーさんとか、福祉用具さんとか、ヘルパーさんとか ) と話し合いをしたりすることも。

サムネイルにしている写真は、実際に上手く言葉が出てこない担当の患者さんに対して数年前に作った、指差し会話表みたいなツールである。( 同期の理学療法士に「埴輪?」と言われてめちゃくちゃウケた )

というのが基本的な流れになる。……と、思う。

その中で大事にしたいのは、その人らしさだ。
立てるようになりました、文字が読めるようになりました、ハイおしまい。とはならない。歩けるようになりたいのは、どこかに行きたいからだ。話せるようになりたいのは、誰かと話したいからだ。そこを深く掘り下げていく。患者さんお一人に対して、うちの病院なら、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が一人ずつ担当になる。そしてそれぞれの専門性を持ち寄って、チーム単位で相談しながらリハビリをする。


「担当するからには、わたし( 自分 ) が一番よくその方のことを知っとかなあかんよ」

と、恩師と呼びし実習先の先生が以前仰っていた。

「病気を基準に、何ができて何ができないかじゃなくて。その方ご自身を基準に、どう生きてきた方でどう死にたいのか考えられるといいよね」

と、同じようにリハビリの仕事をする父が以前言っていた。

家が貧しくて小学校にすら殆ど行けなかったから、文字の読み書きがもともと苦手な方。

もともと本を読むのが好きで、休みの日は図書館をハシゴしていた方。

長く新聞記者として第一線で働いていて、ご病気ゆえに言葉が上手く操れなくなってもなお、てにをはの誤りすら許し難いと思う方。

ご自宅で夜、350ml缶の酎ハイを息子さん、お孫さんと三人で一本分けて呑みながら話すのが幸せな時間なのだとお話しなさっていた方。

喫茶店でモーニングを食べるのが好きで、朝は必ず4枚切りの分厚いトーストを食べていた方。


出会う方の人生は、本当に人それぞれだ。等しく「ここまで話せれば」「ここまで食べられたら」は存在しない。医療は魔法じゃないから、望みをすべて叶えられる訳ではない。けれど、そんな中でその方が大事にしているものはどうしたら少しでも取り戻せるのか、そんなことを考えている。どんなふうに生きたいのか、一緒に考えさせていただいているつもり。導くことはできない。ただ、隣にいるだけ。

大学時代、勉強が苦手だった。今も知識が多いほうだとは思わない。前述の通り、人前で話すのも苦手だ。けれど、だからこそ目の前にいる患者さんとまっすぐ向き合いたいと思う。話さないと分からないから。話したいことがご病気ゆえに伝えられなくなってしまった方々も沢山いらっしゃるから。だから、文献だって読んで調べるし、沢山話をする。

仕事のパソコンフォルダを開いてかつて担当した方の名前を見れば、何が好きで、どんなお仕事をしてきた方で、ご自宅ではどんなコップで何を飲んでいたのか、何がお好きで、何が嫌いだったのか、そんなふうにいろんなことを芋づる式に思い出す。それができるのは、自分の中で唯一ちょっと自信を持っていられること。

言語聴覚士をしています!と名乗れるほどのことは何もないかもしれないけれど、わたしはこの仕事が好きだ。そして、こんなふうに出会った方々との宝物みたいな日々を忘れたくないから文章を書いている。


Podcastを聴いてくださった方は、「イメージと違う」と思うかもしれない。めちゃくちゃしどろもどろに話しているんだもの。自分で聞き返しても苦笑いしてしまった。緊張しすぎて、何話してるか分からなくなることばかりだった。

でも、少しでもこの仕事を楽しんでいます!ということが伝わればいいな。臨床の世界は難しく、尊い。そんなふうに思っている。


∴ もうすこし落ち着いて思い出を書き綴っている記事たちはここにまとめています。


∴ 個人的に/職場的に特殊そう〜と思う箇所は誤解のなきよう……!と思うので追記しておきます✍️

・患者さんに合わせて食器を替えることは、
必要に応じて行っています。
基本的には、
( 手の麻痺によって掬う動作が難しい→顔を近付けて迎えるようにして召し上がる癖がつく→姿勢が崩れると誤嚥しやすい→だから、食べやすいようにグリップを着けよう〜 みたいな感じが主です。
当院では作業療法士さんと相談しながら検討します。
Podcastの中で話したぐい呑みのエピソードは、ご家族やご本人のお気持ち、予後、そのほか諸々を汲んだ結構特殊ケースだと思っていただけたら幸い。

・ご自宅に設置する手すりの位置を気にするのは、
理学療法士をしている父の影響が多分大きい。
もっとも、福祉用具選定のプロは基本的に業者さん及び当院のスタッフなら理学療法士さん/作業療法士さん。

ただ、頭の中の後遺症として、注意が散漫になりやすい/視力として見えてはいるにもかかわらず、認識ができず注意が向かない、などのご症状がある場合があります( 必ずではありません ) 。
お身体にほぼ麻痺が無く、身体機能としては手すりがなくても生活出来そうではあるけれど……頭の中の後遺症ゆえに……という場合、「わたしは」、一緒に患者さんを担当している理学療法士/作業療法士に相談の上で、チームの総意としてご提案することもあります。

🐟おまけ
まじで聴くのが怖すぎる雑談回もあります……こわやこわや

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?