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人の数だけ四季がある

林伸次さんの「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」が文庫化する( おめでとうございます! ) にあたり、noteの投稿から解説文を募集なさっているそう。何度も読み返しているお気に入りの一冊ということで、綴らせていただいてみることにしました。
特に「お母さんがくれた魔法の口紅」と「1年だけ付き合う」が好きです。はやくbar bossaへ彼と一緒にお邪魔したい…!


飲食店のカウンター席が好きだ。

彼らの手から次々と生み出される美しいものを眺めるのが好きだし、そんな彼らの息づかいを感じられるのも好きだ。そしてなにより、カウンター越しに交わす会話が好きだ。
しかしそんな贅沢も昨今の感染事情で記憶の奥、遥か彼方のものになってしまった。そんな中で、この小説を一気に読んだ。

この小説では、「恋愛には四季がある」と話す女性をはじめとする21人の男女から恋愛が語られる。あとそこにあるのは、彼らそれぞれに選ばれたお酒と、バーに流れるボサノヴァだけ。それを我々読者は、まるでカウンターの隅に佇んで盗み聞いているような気持ちになる。


15歳年下の男の子と恋に落ち、「なにかが始まりそう」な春のど真ん中にいる女性。
ブスだと自分を卑下し続けていた人生が変わっていく過程を話した「四六時中相手のことを考えてしまう」夏にいる女性。
1年だけ付き合おうと決め、桜の開花宣言と共に区切りをつけた「終わりがけ」の秋を見つめる男女。
そして訪れた恋愛の冬を超えた先にいた、桜の花びらが載ったアンパンで、かつての恋愛を思い出す男性。


そんなふうに、彼らの恋愛の四季は移り変わっていく。人の数だけ四季がある。わたしだってそうだ。沢山の人と出会い、恋に落ち、別れ、また出会ってきた。きっとそれは誰にでも起こりうることで、なにげなく始まってなにげなく終わる。この小説を読みながらそんな気持ちを何度も思い返しては、過去の淡い記憶を引き寄せた。

1人で声を上げて誰かを思って泣いた夜も、もう今死んでも良いと思うほど満ちた幸せを誰かの腕の中で噛み締めた夜も、ひとしくそこにある。
そんな恋愛は自分だけの特別なものであってほしい。でも誰かに聞いてほしい気もする。だって特別なものだから。そんな気持ちを、人はバーカウンターに置いていくのかもしれない。

やれ営業自粛だやれアルコール提供禁止だと叫ばれる昨今だけれど、どうか夜にお酒を飲む場所は今後も変わらずそこにあってほしい。夜は魔法がかかるし、お酒がそれを美しくするから。
そんなことを祈りつつ、今は平穏な日々を待ちながらこの小説を噛み締めることにする。







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