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読書の!食欲の!秋だ!

個人的に○○の秋は、間違いなく「読書の秋」と「食欲の秋」で決まりである。ということで、愛してやまない食にまつわる本たちを紹介していきたい。

今回は小説2つエッセイ3つコミック1つに泣く泣く厳選した。ラインナップはこちら。


よしもとばなな「キッチン」

我が人生において、いつも迷いなくナンバーワンに君臨する1冊。わたしはこの本の端から端までを心から愛している。実家に1冊、住まいに1冊、そして緊急時避難持ち出し用リュックに1冊入れているほどだ。

唯一の肉親であった祖母を失った「みかげ」の元に、祖母と生前に仲良くしていたという青年「雄一」がやってきて、母親( 実は父親!) に誘われるがまま、3人暮らしを始める……というストーリー。

作中には沢山ご飯が出てくるのだけど、バナナジュースもラーメンもカツ丼も、全部生きることそのものの輝きを煌々と放っているのだ。正直、「キッチン」についてだけでnote3本は余裕で書けるくらいには思い入れが強すぎるので、その愛をぎゅうぎゅうに詰め込んで、いっとう好きな箇所だけを抜粋しておしまいにする。

「どうして君とものを食うと、
こんなにおいしいのかな。」
私は笑って
「食欲と性欲が同時に満たされるからじゃない?」
と言った。
「違う、違う、違う。」
大笑いしながら雄一が言った。
「きっと、家族だからだよ。」

ア〜〜〜〜〜〜誦じて言えるくらい、さいこうに好き。

吉田篤弘「それからはスープのことばかり考えて暮らした」

今年読んだなかで、もっとも読後感の良かった小説。
わたしはたいてい何も起こらない物語が好きだ。自分で書くのも読むのも、あらすじが一言で説明できる物語が好き。このお話を説明するとしたら「主人公がサンドイッチに合うスープのことばかり考えて過ごす話」で事足りる( と、おもう )


「食べる方は最初が肝心だから、
そうなると、つくる方は最後が肝心になる」
「どんな職種であれ、
それが仕事と呼ばれるものであれば、それはいつでも
人の笑顔を目ざしている。」

後述するエッセイはわりと食べる側の人が主となることが多いけれど、小説は作る側の人が主となることが多い気がする。専ら食べる側の専門としては、作る側の人のエッセイは大好物なのだけれど。
とはいえこの作品は決してお料理本ではないし、レシピが出てくるわりに出てこないというか、明確な分量は何ひとつとして出てこない。けれど作る側として大事になりそうなエッセンスが詰まっている。にしてもサンドイッチとスープ片手に映画館、文字面だけで唾を飲み込んでしまうシチュエーションだなあ……?!

伊藤まさこ「おやつのない人生なんて」

学生時代に立ち読みで出会い、のちにどうしても欲しくて欲しくてたまらなくなって別の書店で再会を果たした1冊。わたしは食べ物エッセイが本当に好きなのだけれど、マイベスト食べ物エッセイはずっとこれ。

スタイリスト兼エッセイストという肩書きでいいのだろうか、著者の伊藤まさこさんは、本当に多彩な方。何年経っても色褪せない人を惹きつけるおやつ達の写真は、おやつに対するリスペクトと愛情をミシミシ感じざるを得ないのだ。洗練されたタルトのようでありつつ、どこかホッとする素朴な味のふかし芋のようでもある、魔法の本。
わたしは伊藤まさこさんの人となりというか、編み出す本や写真や文が本当に本当にだいすき。上京したての頃にイベントへ会い行ってご挨拶をさせていただいたとき、心が震えたことは今でも大事な思い出である。

ベッドから起き出して冷蔵庫の扉をそっと開けると、あ、あるある。いつものあの箱。
最初は2センチくらいにしておこうかな。
パクリ、ペロリ。2センチなんてすぐおしまい。
次は3センチいってみようか。

そんなことなら最初から大きく切り分ければ
いいじゃないのと毎度思うのですが、夜、台所に
立ちながら「いけない」「でもあともう少し」
……ひとり、罪悪感と甘い誘惑のせめぎあいを楽しむというのもなかなかのもの。

京都「スマート珈琲」さんのホットケーキも、「月ヶ瀬」さんのあんみつも、名古屋「喫茶ボンボン」さんのサバランもこの本を読んで憧れて食べに行った。それに、恋人へホワイトデーにはトップスのチョコレートケーキをリクエストした。この上の文章がまさにそのトップスのチョコレートケーキについて書いてある章なのだけど、何度読んでも絶品。

庵野モヨコ「くいいじ」

まずなんと言ってもタイトルが最高。くいいじ!!!
庵野モヨコといえば「シュガシュガルーン」に「働きマン」に「ハッピー・マニア」でしょ!というほどド世代の少女漫画好きに、食×少女漫画家のコンビのエッセイを与えないでください溶けます。ア〜〜良い世界線に生きてる。
修羅場時期のデリバリーご飯に、夫・庵野秀明氏がご友人を連れてきたときの( これまたある種の修羅場? )手作りご飯、葉山の素敵なお店での話まで、こんなに語ってくださるんですか…というほど。
あとどのエッセイにも最後に描き下ろしのイラストがついてくるんだけど、これがもう見てるだけでお腹が空いてきそうなほどにリアルなのである。湯豆腐ですら贅沢なご馳走に感じられてしまうのだからずるい。
「描ける人」で「作る人」で「食べる人」なのは最強だな。


俵万智「百人一酒」

かの有名な「サラダ記念日」の著者が綴る、とにかくお酒の話。短歌もたまに出てくるけど、基本的にお酒にまつわるエピソードが出るわ出るわ。作中の終盤には新宿のバーでカウンターの中の人までアルバイトで始めるのだから愛が深い。
さすが有名な歌人さんだなあ、とため息が出るような東京の高級料理店や華やかなパーティーのエピソードがあったかと思えば、人間ドック前夜の飲酒量で悩むようなところがあるのだから愛おしくて好きだ。読むだけでお酒が飲みたくなる。あぁ、おいしい日本酒が飲みたい。

缶ビールなんかじゃ酔えない夜のなか
一人は寂しい二人は苦しい
かつて会いかつて別れし我らゆえ
優しく飲める夜と思えり

エッセイの中に出てくる短歌が、いつも心を貫く。
人の数だけ「これ、わたしの歌だ」と思える短歌が多いのが俵万智の魅力だと思う。感情の揺れ動きを切り取り方が、ほんとうにきれいだ。

奥山ケニチ「ワンナイト・モーニング」

食べ物コミックといえばこれでしょう!と個人的には推したい1冊。もちろん「クッキングパパ」「美味しんぼ」「深夜食堂」あたりの王道から「きのう、何食べた?」「甘々と稲妻」「いつかティファニーで朝食を」「忘却のサチコ」などなど最近のものまでタイトルだけ列挙するなら幾らでも挙がるけれど、わたしはこれが好き……

タイトル通り、一夜だけの身体の関係を持った翌朝の男女の朝ごはんがメインになる話。
それは立ち食い蕎麦だったり、おにぎりだったり、サンドイッチだったりする。この朝ごはんというのがいいなあ。決して焼肉やお寿司みたいなTHE!ご馳走!は出てこないけれど、ちゃんと人の息が根付いているような気がして。それに、家族でも恋人でもなく、いわゆる「ワンナイト」の関係なのがとても良い。もちろんここから一夜だけの関係に留まらない関係もあれば、もう二度と顔を合わせることのない関係もある。その切なさとぎこちなさが混ざり合うところがいい。お互いの思いも分からず、すれ違ったり本当はグルリと実を結んでいたり。その曖昧な関係が、ぼんやりした朝の空気にはよく似合う。

個人的にかつて火遊んでいた頃のワンナイト・モーニングは駅のホームにある自販機で買うリンゴだった。もう二度と戻らないであろう、魔法みたいな夜明けの味。そういう、誰かにとっての思い出を引っ張り出す作品なのだと思う。


紹介したい作品はもっともっとあるのだけど、終わりが見えないのでひとまずこのあたりで。続きがあるかもしれないないかもしれない。
とりあえず書店員時代にせっせとポップを書いたり、ほろ酔いのお客さんにおすすめ聞かれて幾つか伝えたら全部お買い上げなさって行かれたりしたあの頃を思い出して豊かな気持ちになった。本の紹介、またします。

秋だ!本読もう!ご飯食べよう!!




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