#25 トルコ人達に連れられイギリスオックスフォードで手巻き煙草と電子タバコを買える場所に行かされる 30代からの英国語学留学記 2018年2月22日
今日の授業は終始気が沈んだ状態で受ける羽目になった。
原因は昨日出された宿題。
普段は文書で宿題内容が指示されるのだが、今回に限り何故か口頭のみであり、聞き取り能力が酷い僕は宿題の内容を完全に勘違いしてしまっていた。
一人だけ全然別なことをやっており、授業についていけなかったのである。
朝イチの、得意としていたドミニクおじいさん先生の授業でやらかしてしまったのだが本当によくなかった。
気持ちの切り替えが出来ずに、二時間目の苦手なアリス先生、敵が多い午後のSpeakingの授業全てに於いてメンタルが崩れた状況で授業を受け、全く何もうまく対応ができず、授業内容も身に入らず、ただただ半日自尊心が傷つけられていた。
英語能力云々ではなく、自分の精神性の未熟さが故の惨事である。
30歳なのに一体何をやっているのか。
ますます後ろ向き、沈んだ状況になり、傷心状態で帰宅。
ベットの上でただただゴロゴロして精神的自傷行為に励む悪循環。
だが幸運はどこに転がっているか分からないものだ。
同居人のシナンが突然部屋のドアをノックし、中に入ってきた。
「良い感じの水煙草カフェを見つけたから一緒に行こうぜ!」
シナンは本当にいい奴である。持つべきものは友人。
彼が同居人で本当によかった。このような状況下では気を紛らわせるのが一番の処方箋である。
落ち込んでいる時に独力でこの種の精神的負のスパイラルを脱するのは実質不可能である。誰かの助けが必要だ。
シナンは無意識のうちに人を救える特殊な才能がある。
そういうのって大事だし、そういう友人がいるのは本当に心強い。
てっきり二人だけで行くものかと思っていたのだが、シナン曰く、オヌールと色々話し込む機会があり、奴がその水煙草カフェに強く食いついてきたから、何なら僕も誘って3人で行こう、という話になり、そこで僕を誘ったとのこと。
オヌールもいるのかよ!めんどくせぇな‼
と内心思ってしまった。
そしてオヌールとシナンがいつの間にか結構仲良しになっていたことに驚いた。クラスも違うのに何故だろう。
同朋且つ同年代だからだろうか。僕は渡英して2週目に突入しているが、現地の日本人学生と全くもって仲良くなれていない。
オヌールは純粋なクソ野郎で若者なのに学校コミュニティからオッサンの僕とカルロス以外からは完全に孤立しているのだが、コミュニケーションお化けのシナンであれば、彼ともうまく付き合えるのだろう。
シナンは本当にいい奴である
先週末2回も大遅刻したオヌールであったが、今回は驚くべきことに定刻通り待ち合わせ場所のシティーセンターのバスターミナルにやってきた。よっぽど水煙草が吸いたいのだろうか。
だが水煙草カフェに行く前に、オヌールの強い要望で電子タバコを売っている店へ行くことになった。英国在住歴の長いシナンはその種の店に異常に詳しい。
電子タバコと言っても日本で主流のアイコスのような加熱式タバコとは全く異なるものである。Vapeと呼ばれるもので様々な香料(大抵バニラや柑橘系)が含まれた揮発性あるリキッドと呼ばれる液体を熱した際に生じる蒸気を吸い、煙草のように口内及び灰に入れて吐きだし楽しむ嗜好品である。
日本では法律上の問題でニコチンを含んだ電子タバコは禁止されているか、イギリスやトルコでは特に規制はされていないとのこと。
何故オヌールがイギリスまで来てわざわざそんなものを購入したがるのか正直良くわからなかったが、母国トルコよりもイギリスの方がラインナップが豊富のようであり、大量に仕入れて周りに自慢したい、場合によっては転売して小遣いに稼ぎにしたいとのこと。
税関で引っかかるのではないかと正直思ったが、そのような懸念を伝える英語力と気力がなかったのでスルーする。
てっきりその店はシティーセンターの一角にあるものと思っていたのだが、どうやらそうではなく、さらにバスに乗るらしい。
普段乗らないバス停に行き、良く分からない方面のバスに乗せられる。
行先は完全な住宅街だが、僕らが暮らしているホストファミリーの家とは全く違う方面にある。
そして何の変哲もない住宅街の良く分からないバス停で降ろされ、典型的なオックスフォードの公営住宅が立ち並ぶ何の面白みもないエリアを5分程歩くとその店はあった。
店とはいったが普通の公営住宅テラスハウスの並びにポツンと置いてあり、看板がなければ店かどうか分からないレベルの所である。
入るのに躊躇するレベルの禍々しい雰囲気の超ローカルな店。
日本でもこの種の店に入るのに抵抗があるレベル。
下宿近辺であればまだ分からなくもないが、全く違うエリアの住宅街にあるこの店をどうしてシナンは見つけられたのだろうか。
一応聞いたが「俺は一年近くオックスフォードに住んでいるから」という要領を得ない回答しか返ってこなかった。
無茶苦茶入り辛い店ではあるが、シナンは躊躇なく中に入ったので僕とオヌールも彼の後ろにつき入る。
中は意外と広かったが、無骨なラックに雑多なものが無秩序に立ち並ぶ薄暗い怪しい店。一体何屋なのか全く分からないほど色々なものが売られている。
明らかに業務用のバカでかいキッチン用具を筆頭に、箱が腐って日焼けしたバービー人形やWWF(WWEではない)レスラーのフィギュア、大量のお香、インドの神々の肖像画、そしてディルドやバイブレーター等の大人の玩具が無秩序に所狭しと並んでいる。
香港の旺角、バンコクのヤワラートのようなカオスっぷりである。ここがイギリス、しかもオックスフォードにある店とは到底思えないほどのアジアの喧騒感を強く感じる。
店主は石で刻まれたような深い皺のあるターバンを巻いた老人のシク教徒であり、伝統的なインド音楽が大音量で流れており、蒸せるほどのお香が店内でモクモクと焚かれていた。
高円寺等によくある日本のインド系ショップのそれとは比較にならないほどのお香の密度に正直面食らい、せき込むレベルである。
しかしまぁ、シナンはよくこんな店を見つけたもんだ。
てっきりトルコ人、もしくはムスリムネットワークかと思ったが、店主はシク教徒のインド系であり、彼らとは全く異なるバックグラウンドを持っているので、自然と交流の機会が生まれるワケがない。
シナンは慣れた感じで店主と話をし、たばこ作成キットと各種材料を購入していた。シナンがよく分からない煙草を大量に保持し、気前よく誰にでも配っていたのは、この店で手巻き煙草の材料を格安で仕入れて家で作っていたからだとその時初めて分かった。
シナンが購入した煙草の葉っぱ等の各種材料を見せてもらったが、値札がポンドではなくユーロであった。
明らかにオカシナ流通経路で来ている。
「ここに来れば10ポンド(1500円)で100本分の煙草が買えるのさ」
シナンは豪語していた。
いやはや何とも凄い世界である。異国人のネットワークってすごい。
日本にいる中国人やベトナム人もそのような感じで我々では到底不可能な格安な値段でありとあらゆるものを融通している、と聞いたがことがあるが、ここイギリスでもそのようなネットワークがあるのだろう。
オヌールはシナンをアドバイザーとして、どの電子タバコを買うか長々と店主と会話しているようだった。
結果的に10本以上のリキッドと2本のVAPE本体を購入していたが、あのケチなオヌールがこれほどまでに大量購入をしていたことに正直驚きを隠せなかった。
僕は特に興味をそそるものがなかったので何も買わなかったが、いやはやすごく貴重な経験になった。
何度も言うがシナンはどうやってこの店を見つけたのだろうか。そして店主とどうやって仲良くなったのだろうか。
疑問は募るが聞いてもシナンは決して答えない。
この店を去り、そこから水煙草カフェへ行く。どうやら徒歩数分くらいでつくとのこと。どう見てもここは普通の住宅街で水煙草カフェがあるような場所には思えない。
ただただシナンに着いて目的地まで歩く。