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#11 賢者と補習を受ける スーパーで酒を買う  30代からの英国語学留学記 2018年2月14日 その2

3時間目のSpeakingの授業を受ける。

今朝の喫煙解禁時に祝福してくれたアラブ人が多数いたため距離が縮まるこを期待していたのだが、いざグループ課題となるとほぼ全員のアラブ人は携帯を弄りだり、全く作業ができない始末。
昨日と全く変わりはない。

皆の前で煙草吸った所で評価が変わることなんぞないのだ。

俺は無価値なオールドアグリーイースタンアジアンマンである。煙草1本で人生が好転することなんぞない。

順繰りにパートナーが変わり、好意的に迎えてくれる人との邂逅を大事にしようと心を割くも、大多数の人間は露骨に僕を疎んでいる。
音を立てて僕の心が折られ続ける中、ヘラヘラと空虚な笑みを浮かべて時間が過ぎることを待つ他なかった。

こうして2度目の3時間目も嫌な気持ちのまま終了。

だが、折角大金を払い仕事を辞めてまで渡英した僕にとって、このまま引き下がり家に帰って狭いベットで泣くわけにはいかない。

今日はクラスの枠を越えた自由参加の特別補習授業があると事前説明で聞いていたため、清水の舞台から飛び降りるつもりでそれに参加。

補習はconversation class。補習授業ということで先生方がきめ細やかに指導することはなく、恐らくアルバイトと思わしき若い職員が仕切っており、彼らが作成したテーマを元に各々グループで会話をする、といった簡易的な授業であった。

先ほど心を折られまくったSpeaking Classと大して変わらないように思えるが、自由参加且つクラスの垣根が無いため、態々参加する生徒たちは皆精鋭揃い。

僕と同じグループになったのは休暇を取って英語能力をブラッシュアップしに来た小児科医のアルゼンチン女性と、オックスフォードの大学への進学準備のため、この学校に一時的に通っているフランス人女性というインテリな二人。当たり前のように最上位クラス出身で、RP英語をすらすら喋っている。
下手したらうちのホストファミリーより英語が上手いのではないか。


授業で提示されたテーマはSNSの功罪。だが二人ともSNSは一切やっていないから利点なんて分からない、とのことで、SNS拡散されるフェイクニュースの対策、という話題へと変化。

インターネット老人会の僕としてはここ最近のスマホ普及により、若年層、老年層を中心にネットリテラシーが無い人々までもがSNSを通じてネット社会に積極的に良くも悪くも参画している現状に対して一家言あったのだが、それを英語で表現できる能力なんぞ一切ないため、大変困ってしまった。

しかしながら知識人階級足る二人は明らかに英語力が劣る僕を置いてけぼりにすることなど一切せず、随所随所で介護をしてくれた。お陰で何とか3人で実りある会話を楽しむことができた。

日本に限らず、ナショナリズムを極端に煽ったり、複雑な問題を矮小化し一部分のみを極端に誇張した極論を恰も正論であるかのようにアジテートする輩がアルゼンチンでもフランスにもいるらしい。

最初に刷り込まれた情報が間違っていたとしても、それをロジカルに検証するのは難しい。嘘を嘘だと証明する労力よりも、嘘を述べたてる方が簡単であり、過激で耳心地が良い誤った情報を正すことは並大抵のことではない。その象徴たる存在がドナルド・トランプである、とかそんな感じの話をしていた。

彼女らにとって、これは世界的に由々しき問題と認識しているようであり、極東アジアの日本でもどのような感じなのか、と積極的に僕に意見を求めてくれた。

二人と豊富で高度な英語の語彙力があり、且つかなりのスピードで会話をしていたため、恥ずかしながら殆どついていけなかったが、随所随所で平易な英語で内容を要約して僕のために説明をし直してくれたり、意見を求められた際、僕が単語単語で断片的にしか発言できなくなると「つまりこういうことだよね?」と断片的な情報から僕の意図を平易な英語で見事にまとめ上げてくれるなど、機械では不可能な、まさに高度で柔軟な思考を持った人間ではないと出来ない素晴らしい介護をしてくれたのでる

二人ともスペイン語とフランス語が母語であり、英語は後天的に身に着けたものである。

それでいながらも母国語ではない英語をリンガフランカとして見事に消化しながら、意思疎通面できめ細やかにサポートできるとは真の意味でインテリゲンチャである。

巷間で揶揄されることが多い所謂意識高い系ではなく、彼女らはリアルに意識が高い本物である。

真の賢者は愚者を優しく啓蒙できるものだ。会話をしていた嫌味な部分が全くない。二人ともまさに賢者そのものである。

数時間前まで、ケバブを一緒に食べなかったからお前は裏切り者だ、いやお前こそ我儘で馬鹿だ、と言った低レベルな争いを繰り広げており、それに心を割いていた自分が非常に恥ずかしく思えてしまった。

実りがあるconversation classは終わったが、自分は30年間、日本で何をやってきたのか、俺はゴミくずのような存在でしかないのではないか、と自己嫌悪が募り、暗澹たる思いで学校を外にした。

美しいオックスフォードの街並みがと自分の不甲斐ないを対比し、町を歩く度により一層気持ちは重くなる。

さっさと家に帰って不貞腐れて晩御飯まで寝るしかないのか。

そう一瞬思ったのだが、渡英してから一切眠れていないため、どうせ眠れず自己嫌悪ばかり募り余計苦しむことは目に見えている。

グダグダと生産性の無い後ろ向きな思考をしながらトボトボ歩くとあっという間に帰りのバス停に来てしまった。
電光掲示板を見ると、何か事故があったようで次のバスまで30分近く時間があった。

ただ待つのもつまらない。そう思い回りをキョロキョロ見渡すとスーパーマーケット、Sainsbury'sが近くにあることに気づいた。

そういえば今まで一度もイギリスで食事以外、お店に入ったことがない。そして大好きであった酒も一切飲んでいない。

そうだ!困ったら酒を飲もう!
酒だ酒だ!
酒は全てを解決してくれる

一時的であるが。


酒をのめ、それこそ永遠の生命だ、
また青春の唯一ゆいつの効果しるしだ。
花と酒、君も浮かれる春の季節に、
たのしめ一瞬ひとときを、それこそ真の人生だ!

オマル・ハイヤーム ルバイヤートより
小川亮作訳、出典:青空文庫

ということで酒を買いにイギリスのスーパー初潜入。

バスターミナル近く、ということもあり、日本でいう所のまいばすけっと的な小さいスーパーであった。
生鮮食品は少なく殆どが加工品。目を引いたのは数々のパンの群れ。
朝晩ホームステイ先で出てくる味のないパンはここで購入しているのだろう。陳列も雑で包装も雑に思えたのは今までの経験から来たバイアスであり、実際は美味しいものも混じっているのであろう、多分。

だが今回の目的は酒、酒につきる
酒類コーナーへまっすぐに向かう。

イギリスの酒、というとまずはウイスキー、後はギネスとバスペールエールと言ったビール類が浮かぶか、両者とも全くない。
今までの人生で見たことがないほど豊富なビール群が陳列棚に沢山並んでいる。
酒好きの僕には眼福眼福。

因みにギネスはあるにはあったが、扱いは小さい。
日本のちょっと大きなスーパーと同じくらいの扱い。

アイルランド産だからかイングランド人はギネスを嫌っているのだろうか。

そしてどれもこれも冷蔵庫ではなく常温展示。
日本でビール類が常温展示というのは特売品かディスカウントストアぐらいなものだが、イギリス人は常温でビールを飲むのも好むのだろうか。

そしてそしてウイスキーが全然売っていない。
ウイスキーなんぞ今日は飲むつもりはなかったのだが、これには吃驚。

日本ではどのコンビニでもウイスキーの小ボトルは必ず置いてあるのだが、本場であるイギリスでは度数の強いスピリッツは専門店以外では禁忌なのだろうか。

色々と疑問は募るが、30分という制限時間があるため、適当に物色し、一番安かったJohn Smithというあんまりな名前のビール、あの世で俺に詫びつつけることを強いるようなストレイボウという謎の酒、そしてこの二つが外れだったら嫌なので馴染みのあるギネスを購入。

ここのスーパー、Sainsbury'sはほぼ完全無人レジであったが、流石にアルコール類は年齢認証があるようでバーコードを通すとけたたましい警報がなり、やる気のなさそうな白人店員がやってきた。

日本の無人レジでの年齢認証は、ほぼ何も言われず顔パスで終わるのだが、ここイギリスでは厳格のようで年齢を証明するカード類を要求される。

学校で渡された生年月日入りの学生書を渡すもこれではダメだ、と言われ困惑する。
しかたがないので常に持ちあるいていたパスポートを見せ漸く未成年ではないことを証明でき、無事お酒を3缶購入できた。

レジで手間取ったため、バス停に戻ると到着までわずか2分。焦ったがまたバスは来ていないのでセーフ。無事、問題なく今日も家まで帰れた。

宿題をこなしつつ、酒を飲む。

久々の酒。それもイギリスの酒である。

だがJohn Smithは全然口に合わない。妙に口にベタベタして嫌な味が残る。

そしてあの世で俺に詫びつづける酒、ストレイボウはビールだと思ったがビールではなかった。

後で知ったのだがリンゴを発酵させたアルコール飲料、サイダーというモノであった。
日本では一部意識高い系の店でシードルと言われて売られている奴である。

シードルはフランス語、イギリス英語ではサイダーというらしい。

要はリンゴ酒なのだが全く甘くなく、渋い味がする。果実酒という感じでは全くない。そしてアルコール特有のえぐみがある。

嫌な例えになるが、焼酎甲類の大五郎にリンゴの切り身を浸し、それに炭酸をいれたような感じ。
正直、こんなもん、よく飲めるよな、と思ってしまった。
一定層、好きな人はいそうな感じで決して不味くはないが自分の好みではなかった。

口直しに保険で買ったギネスを飲む。
ギネスはイギリスでもギネスであった。

美味い!

何より日本よりも安い!

保険でギネスを買った自分の判断力を褒めながら飲む酒は美味い。

こんなくだらないことで自己肯定感を高める訓練をする自分は本当に哀れ

500m相当の缶を3本飲むと流石に酔っぱらってしまった。大の字になりベットで寝転んで晩御飯を待つ。

今日はシナンがおらずアブドゥルと二人。今日のご飯はレトルトと思わしきタイのグリーンカレー。
イギリスではレトルトカレーでタイカレーが売っているのか。

アブドゥルは何やら言っていたが結構酔っぱらっていたのであまり聞き取れず適当に生返事。アブドゥルも良い奴っぽいのだが、どこか冷たい感じがする。

久々にお酒を飲み、何だか体がふわふわする。
授業を受けた屈辱感、自己嫌悪もどこへやら。お酒はやはり全ての悩みを吹き飛ばしてくれる。しかし解決はしてくれない

そんなことはわかっているが、とにもかくにも傷ついているのだ僕は。

酩酊感に酔いしれながら夜を過ごそうと試みる。
日本であればいつの間にか寝れているが、こころのどこかで不安が拭い去れぬのか結局酔っぱらっても眠れはしなかった。
しばらくすると酔いが醒め、やはり不安感、そして自己嫌悪に陥り結局今日も眠れない。

先日、先々日同様、酒の力を借りても眠ることができず4日ほぼ不眠のまま朝を迎えることになってしまった。

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