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#36  荒んだターミナル、まさかのカソリック大聖堂@ロンドン初日 30代からの英国語学留学記 2018年3月03日その2

苦慮せずロンドンへ上陸。イギリスの公共交通機関は本当に優秀。

降車場所はヴィクトリア駅バスターミナルという如何にもな名前の所。
バス(コーチ)だけではなく、鉄道の一大ターミナルにもなっているロンドンの交通ハブ的なところ。
東京で例えるとバスタがある新宿のような所なのだろうか?



ティーンエイジャーの頃から各種メディアで触れまくった憧れの都市ロンドン。

だが降り立ってみての第一印象はネガティブなもの。

淀んだ雰囲気で行き交う人々の目に生気が感じられない!

超大都市の交通ターミナル故、色々な事情を抱えている人が多いからだろうか?

早朝土曜にも関わらず人は多くて活気はあるが、どことなく負の空気が漂いどんよりとしている独特な場所であった。

特に鉄道オタクという訳では無いのだが、折角なので鉄道が走るヴィクトリア駅構内を散策。妙に広く開放感があるが、どうもネガティブな空気に包まれている気がしてならない。
バックパッカー時代に訪れたタイ・バンコクにあるフアランポーン駅のような活力溢れる所がまるでないのである。


社畜トロッコ集積所と評されることがある品川駅や新宿等の東京の主要ターミナル駅にどちらかといえば近い。

だが歴史的建造物故に外観や内装は無茶苦茶豪勢で異国人を圧倒する造りなのが都内の同種のそれとはやはりどこか異なるし、観光地のような雰囲気で人がそれなりにいるのに、何故か生気が感じられないのが、本当に奇妙に思えた。

流石イングランドの中心ロンドン、ただもんじゃないね

なお改札を通らなくともホーム近くまで普通に行けてビックリ。イギリスの鉄道はガンダムカラーのカラフル車両。


駅に居続けても仕方がないので最初の目的地であるバッキンガム宮殿へ徒歩でゆっくり向かう。

ヴィクトリア駅の外はやたらめったら色々な工事をしており歩きにくいことこの上ない。休日早朝の再開発している都内のターミナル駅裏側の如き光景が延々と広がっている。
品川と新宿を足しで2で割ったような所だな、ここ、というのが正直な印象。

駅から離れるにつれ、道行く人が徐々に少なくなるが、なぜかスペイン語が多く耳に入ってくるようになる。英国と中南米らスペイン語圏はそこまで結びつきが強いというイメージがないのでちょっとビックリ。
そしてカルロスの事を思い出し干渉的な気持ちになる。

道中は特別面白い光景はない。歴史的建造物的なものと、近代的なビルが混合しており、日本ではまず見慣れないことは間違いない光景ではあるが、かと言って何が特徴かと言われると表現するのが難しい、特筆すべき特徴が良くも悪くもない、何とも形容しがたい光景がずっと続いている。


そしてこのあたりはロンドンの中心部に近いため、車の交通量も当然多いのだが、オックスフォードとは比べ物にならないほど乱暴な運転の車が多く、車道近辺を歩くのが結構怖い。急発進、急ブレーキをするドライバーが多い。大都会故に何かに追われて気が立っている人が多いのかもしれないが、ハラハラする運転が視界にやたら入るので怖い。

だがそんな乱暴な自動車に歩行者たちも負けてはいない。
皆信号無視がスタンダード。信号を守っているのは観光客くらいである。
4車線の大きな道路であっても果敢に合間を自動車の合間を縫って横断をする白人おじいちゃんおばあちゃんが何人もいる。

そして路上喫煙者がかなり多く、歩道には煙草の吸殻が至る所にある。定期的に灰皿やゴミ箱が設置されているのだが、あまり意味を成していないようだ。

そして煙草の吸殻より多いポイ捨てゴミは吐き捨てられたチューインガム。黒ずんだガムが石畳の道路の至る所にへばり付いており、ある種の模様とも思えるくらい。
後で調べた所、チューインガム問題はイギリス全体の社会問題らしい。イギリス人はガムが好きなのか!意外である。


想像とは裏腹に荒んだ町である。ロンドンと言っても無茶苦茶広い世界屈指のメトロポリタンシティーなので、たまたまこのエリアだけがこんな感じなのかもしれないが、出鼻をくじかれてしまったのは事実である。

敢えてグーグルマップを使わずダラダラ歩き続ける。
すると突如一際目立つ強大な建物が目に入った。
くすんだピンク色と白の縞縞模様と天高く聳え立つ塔が目を引く重厚な造りの異常な建造物。明らかにキリスト教的な宗教施設であるが、毎日見ているオックスフォードのそれらとは趣が全く異なる。


調べてみるとウエストミンスター大聖堂(Westminster Cathedral)という、イギリス・イングランドでは珍しいカソリックの大聖堂らしい。
因みに世界遺産登録されている英国王室と関係が深いウエストミンスター寺院(Westminster Abbey)とは全くの別物とのこと。

CathedralもAbbeyも日本人からすると馴染みの薄い概念を表す英単語なので非常に紛らわしいと正直思う。

ウエストミンスター寺院は知っていたが、大聖堂は知らなかった。
しかもカソリック大嫌いなイングランドの首都ロンドンにカソリックの総本山が鎮座しているとは。こりゃ面白い所に違いない!


早速スマホで調べると、重厚な造りにも関わらず建造されたのは19世紀末らしい。その割にはやたら歴史を感じる造りに思える。

何より英国国教会が支配的になってから19世紀末までロンドンではカソリックのCathedralの建築が許されなかったことに驚く。

イングランドのマジョリティー達はどれだけカソリック嫌いなんだ!

英国国教会が出来た経緯が政治的で且つ世俗的だったにも関わらず、いや世俗的だったから故にこのようなカソリックに対する強硬な姿勢をイングランド国民一丸となって取り続けることになったのかもしれないが、その姿勢がIRAによる一連のテロやスコットランド独立運動等に繋がる遠因になったのかもしれないと考えてしまった。

だからと言ってイングランドのネイティブ白人達で宗教的に敬虔な人には未だ嘗てあったことがないし、オックスフォードの街中にあれほどある宗教的な建造物も基本ガラガラで、観光客しかいない。学校の先生も英国国教会どころかキリスト教的なものについても語ることもあまりなく、ホストファミリーの家にもキリスト教的なモチーフが全くない。

敬虔なカソリックであるアルゼンチン人であるカルロスも「イギリス人はあまりにキリスト教に対するリスペクトが無さすぎる」と憤慨していたくらいである。

滞在して一か月足らずの経験で断言するのは愚かなことだとは思うが、欧州のキリスト教国は宗教に対して真摯である、というイメージを抱いていたため、周囲のイングランド人の宗教的情熱の薄さが現代日本人レベルであることが正直意外に思えていた。

そんな彼らが19世紀末まで(嘗て信仰していたにも関わらず)カソリックの大聖堂を首都へ建築することを許さなかった、というのは妙に不寛容に思える。宗教的な関心が薄い故に、政治的に敵対する周辺国が信奉する宗教への敵愾心が強かったからなのだろうか。

まぁ、異国の異教徒がああだこうだ考察できるレベルの話題ではないので、取り合えずイチ観光客として、何も考えずに本場欧州のカソリックの建造物を楽しむことにする。

驚くべきことに何と無料で入場可!!

オックスフォードの全ての主要な教会(全て英国国教会である)は結構な中の拝観料を取られたのだが、ここロンドンのカソリックの総本山は非常に寛容らしい。カソリックというと十分の一税や贖宥状(免税府)の印象で、信者への金銭的要求が強い宗派という偏見があっただけに感動した。

内部は想像以上に広く天井が高い。ピンクと白の縞縞というどこか可愛らしい外観とは裏腹に相当重厚な造りであり、薄暗い構内を随所随所照らす蠟燭の明かりもあって実に神秘的で宗教的な感動を促す雰囲気を存分に醸し出している。そして何より人が多い。観光客ではなく、明らかなカソリック信者と思わしき人々が確たる目的を持って訪れている様子であった。

正直異教徒が観光目的で入って良いような雰囲気ではなかったため、恐る恐る内部を暫く散策すると、タイミングよくカソリック特有の儀式が始まり、完全正装した神父ら聖職者が現れたかと思うと、これまた正装した合唱団がグレゴリオ聖歌を歌っていた。生で聞く本場の聖歌は美しく、そして非常に力強い。

直立不動で神妙な趣で祈りを捧げている人、跪いて強い祈りを捧げている人が数多くおり、大聖堂全体は大いに宗教的な雰囲気、荘厳ではあるが何処か温かく心が浄化されるような暖かい雰囲気に包まれていた。
オックスフォードどころか日本でもここまで暖かい宗教的情熱に包まれた場所を未だ訪れたことがなかったので非常に衝撃的であった。

異教徒であり、宗教的なモノへの熱意や関心が殆どない僕ですら思わず圧倒されて身動きをすることが憚られるほど。心にぐさりと刺さる。

今までカソリックというと、権威主義で、戒律が厳しく、金銭を多く要求するモノという偏見があったのだが、キリスト教の一派であるカソリックが世界各国で信仰されているのは、この洗練された儀式が人間の根源的な所にダイレクトに働きかけられる力があるからではないか。
力強いものに人は本能的に惹かれるのである。皆救いを求めたい、すがりたいものがあるのだ。

そしてここへ向かう途中、やけにスペイン語が飛び交っていたのは、ロンドンで働く中南米由来の移民や労働者たちの多くが、心の安息を求めてこの大聖堂へ向かっているからではないだろうか。

宗教的な象徴というのは祖国を離れ、異なる価値観の異国で働く人にとっては心の平穏へ繋がる非常に重要なものなのかもしれない。

まさか人生初のロンドンで最初に訪れた場所がカソリック大聖堂で、宗教的なモノへの重要性を認識させられるとは思わなんだ。

あまり長いするのも憚られるので、隙を見て退散。本来の目的地であるバッキンガム宮殿へ向かうことにした。

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