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#7 英語で英語を勉強するのはツライよ 30代からの英国語学留学記 2018年2月13日 その2

2時間目の授業開始

先生が変わり、30代後半から40代前半の金髪碧眼の綺麗な白人女性。
名前はアリス。

2時間目は語彙の授業であり、英語で英語の語彙を学ぶ。語彙の学習は究極的には丸暗記しかないのだが、適切な利用方法と知識の定着を促すために色々と工夫が為されている。

毎週テーマが決まっており、恐らく留学生レベル、レベル4程度では知らないであろう単語を先生が示し、生徒各々にどのような意味なのか意見を出させ、最終的に先生が本当の意味を説明。その語彙を使った例文作成や簡単な会話をさせる、と言った内容。

vocabularyに特化したカリキュラムがあることに驚いた。
僕の知る限りでは、語彙はDUO等の単語帳で自主学習で学ぶモノ、という意識があったが、個々人の努力では限界はあり、無理やりにでも頭に叩き込まなければ高度なコミュニケーションを取ることに大いに支障があるため、専門のカリキュラムで学ぶというのは非常に有意義である、と言えるかもしれない。

しかしながら問題が、大きな問題が二つあった。

最初の問題は、グループ作成のイニシアティブを先生が完全に握っていることである。
前回の授業では各々好みの生徒同士でグループを作ることができたのだが、毎回同じグループでは宜しくない、という先生の判断で、授業の度に先生が強制的にグループを決める。

これは必ずしも間違いではないと思う。
仲良しこよしで癒着するよりかは、毎度新鮮な相手とグループワークをした方が実践的な知識は定着しやすいとは思う。だが組む相手のやる気次第で効率が決まってしまう、という致命的な欠点がある。

今回の授業で組んだ相手はティーンエージャーのサウジアラビア人男子と日本人男子。
二人ともやる気が感じられない。

勿論、彼らなりに意欲はあるのだろうが、二人とも派閥外の人間とグループワークをすることに拒否反応があるタイプの人間であった。

とりわけ新参者で30代の冴えない僕という存在は、ピチピチ絶倫ティーン男子である彼らにとって、完全に興味の範疇から外れている存在のようであり、扱いが極めてぞんざい。

ロクに会話が弾まずグループワークが全然進まない。日本人の大学生はそれなりにやろうとする姿勢は見えるのだが、サウジアラビア人の彼は特に厄介で、普段懇意にしている韓国人女子達と以外とコミュニケーションを取ることを露骨に拒絶している。
グループの発表が形にならなくても何ら気にしないのである。ゴミのようなアグリーオールドアジアンマンと絡むことはパイルオブシットなのである。

授業内容自体はしっかりしているのだが、3人ともギクシャクした感じであり、全くグループワークが上手くいかなった。

そこは長幼の序の精神を生かし、僕が強権を振るうべきなのだろうが、初日という状況もあるのと、自分の英語力に自信が持てない事情もあり、結局ヘラヘラと醜い笑みを浮かべて場を何とか繋ぐ、というダメな日本人ムーブを取る他なかった。

そして第二の問題は、肝心の先生の英語が全然聞き取れない、というところである。

先生はネイティブ英国人であり、我がホストファミリーよりも聞き取りやすい英語を喋っているのであろうが、波長が合わないのか聞き取りが非常に困難である。

昔から波長の合う人間以外とは英語のコミュニケーションが苦手であり、特に若い女性の英語の聞き取りが苦手ではあったが、語学学校の先生の英語でここまで支障を来すとは予想外であった。
彼女が悪いわけではなく、完全に自分の能力の問題である。

そのため、前述のギスギスした面子とのグループワークに於いて、僕が先生の指示を上手く聞き取れずに頓珍漢な発言を発することが多く、他の二人に完全に舐められてしまい、作業がより上手くいかない、という悪循環に陥ってしまったのである。

90分の授業が心から苦痛に感じられた。

敗北感に包まれて2時間目を終える。そして僕は今後上手くやっていけるのか、仕事辞めてまでここに来て本当に良かったのか、というネガティブな感情に完全に包まれてしまう。


授業終了後、肩を落としながら学校の外に逃げるように外に飛び出す。
するとシナンが煙草を吹かしながら僕を待ってくれていた。

「最初の授業はどうだった?とりあえず一緒にランチに行こうぜ!」

本当にシナンはいい奴である。


シナンは、今朝紹介してくれた台湾人のアンディ、韓国人のジェイコブに加え、僕と同じように社会人になってから留学した日本人のK君、アフリカのアンドラ出身の男の事(名前は聞き取れず忘れてしまった)の4人を誘い、彼が懇意にしているオックスフォードのハイストリートにあるパニーニ屋に僕を連れて行ってくれた。

ケバブ食べたい、と前日我儘を言っていたオヌールとエライ違いである。

パニーニ屋はちょっと入りずらい場所にあったが、シナンは渡英して1年近く経過しているからか、そのようなローカル色の強い場所であっても、パニーニ屋の店主とは懇意にしているようであり、にこやかにコミュニケーションを取っていた。

ステレオタイプな陽気なイタリア人の店主はワザとらしいイタリア語を交えながら接客してくれるナイスガイ。

エスプレッソ付きのパニーニで平均6 ポンド。バリエーションは豊富にあったが、正直違いはよく分からないので一番安いものをとりあえず注文。
6ポンドは日本円で900円。学生が食べるランチにしては中々の額であるがイギリスでは普通である。物価が高い!

パニーニは普通に美味しい。だってイタリア料理だもの。
ランチでの会話。
まずは新参であり、何故か彼らよりレベルが高い所に属している僕の授業がどんな感じだったか、という感想を問う話題で話が進んだのが、2時間目にグループワークを組んだサウジアラビア人が非協力的だった、という話をした途端、シナンが爆発。

アラブ人はだからクソだ、絡む必要はない、という偏見交じりの演説が長時間始まり、彼が一方的にしゃべりまくるランチタイムになってしまった。


何度も述べた様に、シナンは凄く凄く良い奴なのだが、このような面倒で危ない所がある。
トルコ対アラブというのはオスマントルコ時代から続く宿命的な対立ではあるのだが、この種のヘイトスペーチと捉えかねない危険な発言を異国の公共の場所で発するのは如何なものか。

だが、誰も諫言することができず、圧倒されたまま、彼の独壇場でランチタイムは終わってしまった。他の生徒とも交流を深めたかったのだが。

昼食後は3時間目となる最後の授業を受ける。
3時間目は選択制の授業で、各々好みのカリキュラムを選択制で受けられる仕組みになっている。

ある程度レベル毎にフィルターを掛けているのだが、違うクラス、違うレベルの生徒と交流が持てるのは有難い。ちなみにシナンはお金を節約するために午後の授業を受けられないステータスになっているようであり彼とはここで一旦分かれる。残念。

僕が選択したのはSpearkingクラス。会話能力をビルドアップすることに特化したクラスである。

多くの外国人留学生がそこの部分に苦手意識を抱いているようで、クラスは20名以上の大所帯。
そして驚くべきことに過半数はアラブ系。
先ほどシナンがクソミソにディスっていた人種ばかりであるが、盟友のカルロスと、つい先ほど一緒にランチを共にしたジェイコブもいたので一安心。

ジェイコブに至っては教室に入った途端に「同じクラスなら言ってくれよ!」とわざわざ挨拶してくれた。彼も本当にいい奴である。

3時間目のSpeakingクラスの先生は陽気な初老の白人男性。
テーマが書かれた紙を配られ、質問側・回答側に分かれて順繰りに会話をし、一巡すると立場を逆にして繰り返す、というシステム。
もちろん先生が随所随所で介入し、会話を盛り上げてくれるのだが、流石に人数が多すぎるためきめ細やかなカバーはしれきない、という印象を受けた。

この授業は固定グループを組まなくて良い、という利点はあるのだが、会話する相手の意欲によって大きく左右される、という欠点がある。

特に大半のアラブ人の若者は本当に酷い。

お前みたいな醜い男の東アジア人と会話する必然性なんてねぇ、という態度を取り、一切僕と会話をせずスマホに夢中する奴多し。
そんな不届き者であっても、相手が変わり女性になった途端、満面の笑みを浮かべカンバセーションを取る。

自分という存在が値踏みされ、価値がないと判断されればゴミ当然とばかりに相手にされない。

これにはショックだった。自分という存在には価値がない、ということを態度で露骨に示されているのである。

勿論、全てのアラブ系がそうという訳ではない。

僕のような人間であっても生真面目にテーマに沿って会話をしたり、親身に身の上話をしてくれる人もいた。

だがそんな人は圧倒的に少数、少なくともこのクラスでは。


授業のテーマ、カリキュラム自体は優れていたが、それに与する人間のモチベーションというかアティチュードによって大きく質が左右されることを思い知らされた授業であった。




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