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#15 金曜昼にオックスフォードでお散歩し、ピザハットでピザを食べる 30代からの英国語学留学記 2018年2月16日 その2

心身ともに健康な状態で初めてオックスフォード市内にいる。
しかも金曜の午後13時過ぎで天気も悪くない。絶好のお散歩日和

シティーセンターを自由に気ままに散策。今までのように目的がある訳ではないので本当に気軽に見れる。上手くいかなかったらどうしよう、という不安を抱えずに歩けるのはそれだけで素晴らしいことである。

金曜の昼にも関わらずハイストリートは多くの人で賑わっている。

観光客なのか、他の語学学校の生徒か、はたまたオックスフォードの各コレッジの学生なのか。
天気が良く活気のある通りというのは、ただ歩いているだけで楽しい。
何より平日昼に繁華街を歩くのは得も言われぬ解放感がある。
ましてや海外、しかも中世都市オックスフォード。気持ちが昂らない訳がないのである。

ストリートミュージシャンや大道芸人のような人も多い


観光客気分であちらこちら歩く。
ただただ楽しい。

英語を学ばねば、他の生徒に馬鹿にされないようにしなければ、と前のめり視野狭窄になっていたが、一息つくのは大事。
表層的な勉強だけに捕らわれると死んでしまう。自分はそこまで強固な意志、目的意識をもってここに来たわけではないのだから


30分程堪能。思いの外オックスフォードの商業地区は小さく、30分もあれば大体一回りできる。
そして意外なことに、チェーン店が非常に多い。国際的な巨大チェーン店だけではなく、恐らくEUや英国内では著名なチェーン店が目を引く。

※オックスフォードシティーセンターの商業地区。


歴史的な建造物ばかりが建て並んでいるため、どのチェーン店も景観に気を使っているが、中はマクドナルドだったりGAPだったりと普通のチェーン店なのだ。



12世紀に大学が創設され、WW2もドイツ軍からの爆撃を逃れた、英国内でも有数の歴史保存地域であるにも関わらず、日本の京都のように数百年間営業しているようなお店、装飾品屋、家具屋、レストラン等が全く見当たらない。
オックスフォードの歴代学生達に愛されているその種の店は探せば裏路地等にはあるのかもしれないが、少なくとも人通りの多いハイストリートとその路地には全くその種の店がなかった。

これは予想外であった。何故なら折角の独りなので、伝統的な歴史ある英国料理を食べられるカフェ、パブ、レストランで誰にも邪魔されずランチを取りたい、と思っていたからである。
それらしきパブはあるにはあった。しかし昼間は何処も営業していない。
カフェもレストランもチェーン店ばかり。一応、レストランはあるのだが、ドレスコードが必要なんじゃないかと思われる程の超高級レストランしかなく、気軽にフラッと一人で入れるような店は見当たらない。
渡英1週間も経たずにチェーン店を利用するのも何処か興ざめするし、超高級レストランに入る度胸もないため、必死に目的にマッチする店を探す。

だが街歩きに目的が加わると、途端に不安と不満がたまるものだ。
先程までの目的の無い散歩で感じた解放感は一気に消えうせ、妙な焦りばかりが募る。こんな筈ではなかったのに。

数十分、商業地区をウロウロすると、突然声をかけられる。

馴染みのあるスペイン語訛りの英語。

そう、カルロスであった。


彼は僕より一足先にオックスフォードのシティーセンター散歩を独り行っていたが、彼もランチに良い店が見つからず、また独りでランチを食べるのはアルゼンチン人にとっては異常な風習なようで、思案に暮れていた所、偶々僕が目の前を通りかかったため、声をかけた、とのこと。

既に時刻は15時近い。ランチにしては遅い時間。時計を見ると余計に空腹が募り、耐えられなくなってきた。

カルロスは「もう何処でもいいからランチを取ろう。俺はピザがすごく食べたい。ピザハットがあったからピザだ。一緒にピザを食べよう。ピザハットなら不味くはないからな。イギリスのメシは原則マズイからな!」と
半ば強引にピザハットへ連れていかれる。

英国オックスフォードでピザハットを食べるとは何とも可笑しな話

だが日本のピザハットと英国のピザハットはちょっと違っていた。
日本のピザハットと言えばほぼデリバリー専門ではあるが、ここのピザハットは一般的なファストフード店のように、ピザ1枚ではなく、1ピース単位でピザを売ってくれる。サイドメニューも異常に豊富でセットすらある。
日本以外のピザチェーン店ではこのように一切れずつでもピザを売ってくれるのだろうか。

※グーグルストリートビューで調べたら2022年時点で閉店していた。
タイムマシン機能で在りし日のオックスフォードピザハットが見られる


とはいえ味は日本も英国もそんなに変わりはない。
ピザハットはピザハットである。

勿論美味しいのだが、わざわざ英国で食べるようなものか、と思うと疑問は残る。しかしながら彼の強引な誘いがなければランチを食べ逃していたため、時には妙な拘りを捨てることも重要なのだろう。

カルロスと二人きりでピザを食べながらお話。

カルロスも僕と同じように、他の若い学生の多くが遊び感覚で授業に参加してり、やる気が感じられず、時に非礼な振る舞いを平然とすることに大変憤っていた。

ただ僕と違い、彼自身は落ち込むようなことはなく、随所随所でそのような生徒を堂々と𠮟りつけている。
自分の子供と同じ年代の子供に囲まれており、彼らが良くない振る舞いをしていたら大人として叱るのは当然であり、彼らの親も当然それを望んでいる筈だ、とのこと
自分の英語力が未熟なことは分かっているが、それとことは別問題であり、悪い子供を叱るのは大人の義務だ

口だけではなく、実践している彼の言葉は説得力がある。

特にカルロスは、クラス唯一の若い白人であるコロンビア人男子ミゲルのことを大変気にかけていた。

僕は彼とはまだ殆ど話をしたことがないが、我がクラス唯一の若い白人男性であり、背は低いがスタイルはスラっとしていてオシャレであり、顔も童顔で、いかにもアジア人女子受けするタイプの男の子であった。

そのためか圧倒的マジョリティーである韓国人女子を中心に、常に周りからキャーキャー言われており、クラス内外でもアジア人女子を沢山引き連れている等、お山の大将な振る舞いを常にしている印象があった。
異人種が混ざる環境では若い白人男子が強いのだ。


カルロスは2時間目のアリス先生の授業で(余談だが、カルロスは彼女のことを何故かスペイン語風にアリシアと呼ぶ)一度組んだことがあり、自分の子供と同年齢で且つ同じ南米のスペイン語圏出身の白人、という近い境遇ということもあり、彼の時として羽目を外した振る舞いや、全体的に授業参画の意識が低いことに強いショックを受けたらしい。
そのため、授業後に校内で顔を合わせた際に、思いっきりスペイン語でミゲル君を𠮟りつけた、とのこと。

「お前は本気で英語を勉強する気があるのか?
お前の親がイギリス留学するためにどれだけのお金をお前の為に払ったのか考えたことがあるのか?

俺がお前の親なら泣く、そしてお前を殴る。
お前は親の期待を裏切っていることをもっと自覚しろ!恥を知れ!」

中々強烈なことを言っている。
自分の親と同年代の知らないオッサンに母国語でこう怒鳴られたら相当ショックだろう。僕なら泣いちゃう。

流石のミゲル君も叱られた時はシュンとしていたようだったが、今日の授業ではいつも通りの振る舞いであり、呆れてしまった、という。

もし、自分の子供を留学先であのような振る舞いをしていたら、と思うと怒りが込み上げてしまう。
だから言い過ぎだとは分かっているが、声を上げざるを得なかった。

俺は周りの若者から嫌われていることは分かっている。だけど嫌われることは問題ではない。ダメな子供にダメと大人は言わなければいけないんだ。
だから毎晩、妻と子供に電話をし、ミゲルのことを話し、彼のようにならず、まじめ勉強に励み常に礼儀正しくするよう、厳しく言いつけている。

良くも悪くも昔堅気の熱いオジサンだ、と改めて感じた。

南米のラテン系親父は皆カルロスにように熱い男なのか、それとも彼だけ特別オールドスクールな方なのか。

少なくとも僕が二十歳そこそこで親の金で留学できていたら、浮かれず真面目に勉学に励めていたか、というと正直自信はない。
若い時に異国で解放的な環境に置かれると羽目が外れるのは仕方がないとは思う。

正直、ミゲル君はカルロスが言うほど、振る舞いが酷いとは思えなかった。(酷いのはサウジアラビア人連中である)
後で何度か絡むことはあったが、若者特有の万能感に浸っている育ちの良い普通の善良な若者だと僕は感じた。

生まれてこの方真面目一辺倒で、今でも銀行員として住宅ローンを取り扱うことで人々を幸せにできると本気で思っており、そんな銀行内で良からぬことが起こらぬよう、監査部門で働いていることを誇りに思っている、カルロスのような純粋な人間にとっては、自分の息子と重なることもあり、彼のことが殊更許せなかったのだろう。

流石に厳しすぎる、頑固すぎる、独善的すぎると思う所はあるが、このような環境でカルロスのように厳しく締めてくれる人は貴重である。
嫌われ者になることを恐れない彼の気骨溢れる姿勢は素直に尊敬できる。

若者にとっては、特にミゲル君にとっては思いもよらぬ災難であり、気の毒であるとは思うが

その後、カルロスに問われ僕の身の上話となる。

都合2度転職しており、色々あって前の仕事が合わず、元々好きであった外国と関われる、前のような仕事に復帰したく考えており、気持ちを切り替えたいのと英語力を鍛えるため、ここに半年間来た、という話をする。

どこまで僕が英語で、彼に理解できるような言葉で話せたかは分からないが、現状持ちうる限りの英語力でカルロスに淡々と話をする。

君は凄い。中々出来ることはできない。素晴らしい選択だと思う。自分のお金で来た、というのが本当に立派だ。授業中も君は大変真面目に受けていて関心する。日本に帰って何をするかはわからないが絶対に上手くいくと思う。
ただ申し訳ないが、君は発音を改善した方が良い。
正直かなり酷い。

俺も酷いことは分かっているが、でもやっぱり君の発音は酷いと言わざるをえない。
俺は定例会議で様々な外国人の英語を聞いているので君のような訛りにの英語を聞くことに慣れているが、ミゲルみたいな若者は我慢強くないから、君の英語を聞くのは正直不快だと思う。
話を聞かない相手も確かに悪い。
だが聞かせるようにするため、もっと発音を改善すべきだ。
君が色々勉強しているのは分かる。
でも何よりも発音を改善した方がいい。
英語のTVシリーズや歌を聞いて真似したりして改善すべきた。

やっぱり俺の英語の発音はそんな酷いのか!

カルロスに淡々と言われるとショックを受ける。いや、正直渡英するまで仕事柄結構英語を使ってはおり、そこまで発音について指摘をうけたことがなかったので、自信はないが酷いとは思ってはいなかった。

だがあの真面目なカルロスに正面切って言われると、いよいよ俺の発音は深刻なほどゴミレベルなのだと認識せざるを得なかった。

本当悲しいよ

発音が酷い、と完全に自覚してしまい、僕は今後躊躇せず普通にしゃべれるのだろうか。ただでさえ先生以外の若者と会話するのに気を使っているのに、これではますます英語を話すのが怖くなってしまう。

だがカルロスの言う通り、我慢強くない相手に話をある程度聞いてもらえるレベルに発音を改善しないと今後の未来は開けない。

一つ同じ屋根の下に住む異常なお人よしシナン、僕とカルロス以外相手にされていない純粋なる性悪野郎オヌールのような、良くも悪くもピーキーな気質のトルコ人以外、僕は碌にコミュニケーションが取れていない。

このままではいけない。いけないんだ。

しかし30代で今から英語の発音をどうやって改善すればよいのか。

英語のドラマや音楽聞いて真似しろ、と言われたが、
その種の作業は中学生時代から好き好んでやっている。

その結果がコレである。

根本的に英語の音を捉える姿勢が間違っているのか、脳みその使い方がオカシイのだろうか。うーむ。どうすれば良いのか分からない。
簡単に分かっていればこんなことにはなっていなかっただろうが。

こんな感じでカルロスと2時間近くピザハットで熱く話をした。
因みに8割近くはカルロスが喋っていた。

なお、この会合のお開きの端緒はカルロスによって一方的に開かれた。

「今日は金曜だからプレミアリーグをリアルタイムで見たい」

フットボール好きのアルゼンチーナ、カルロスらしい理由である。

カルロスとの長い会話は有意義なものであったが、発音を何とかしなければいけない、という解決が非常に困難な課題を否が応でも認識せざるを得なくなった。

途中までの解放感はどこへやら。
再び重苦しい気持ちのまま、バスに乗って家に帰ることになった。
いつも帰路は足が重い。

家に帰るとシナンからwhat'supでメッセージが入っていた。
金曜日、ということで何処かに遊びに行っているらしく、ホストファミリーに晩御飯はいらないからその旨伝えてほしい、とのこと。

何となくシナンとダラダラ会話して気持ちを紛らわせたかったのだが、そうもいかなくなってしまった。
そしてすごく煙草が吸いたい。ムシャクシャするとタバコが吸いたくなる。
シナンがいないとタバコが吸えないのだ。
いい加減煙草買ってしまおうかな、

そしてムハンマドもおらず今日も一人で晩御飯。
チャーハンのような謎中華を独りで食べる。おそらくこれも冷食なんだろうが、日本のそれよりも八角のような香りが強く、癖は強いが結構美味しい。香港旅行を思い出してしまう。香港は英国の旧植民地だから中華も香港式なのかな。でも香港の中華はそんなに八角等は使わないよな。どうなんだろうね。

このまま寝てしまおうか、しかし明日は土曜日で一日オフ。何も予定もないのは酷い話だな、どうしよう、と一人悩む。

するとオヌールから突如waht'supで連絡が。
僕とカルロスを交えたグループチャットルームを作成し、オヌールの独断でなし崩し的に3人でオックスフォード市内観光をすることが決まってしまった。

オヌールはどうしようもないほど面倒臭い奴ではあるが、今回は強引な彼の行動力のお陰で、一瞬で土曜日の予定を埋めることができた。

話の流れで僕が明日の観光プランを作ることになり、ネットを駆使して情報を集め、グーグルマップを嘗め嘗めしながら動線もしっかり考え、かなりちゃんとしたウォーキングツアープランを組むことができた。

旅行好きなので旅行のプランを決めることは結構キライではないのだ。

二人に明日のプランを連絡すると二人から賞賛の嵐。

ちゃんとしているな!すごいぜ!云々

褒められるのは悪いことではないぜ!

すっかり気持ちよくなったお陰で、この日は薬の力を頼らず自然に眠りにつくことができた。


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