見出し画像

ヴィパッサナー瞑想中盤

4日目からヴィパッサナー瞑想が始まる。
午後の瞑想で、ゴエンカ氏の指示に従い、1時間体を動かすことも目を開けることもしないようにと念を押され最初のヴィパッサナー瞑想を行なった。

指示を聞きながら瞑想を行うにつれて、激しい痛みが体を襲う。呼吸も速くなり、あぐらをかいている両足は引きちぎられているのではないかと思うほどの痛みで、辛くて涙がとめどなく流れる。でもこの1時間は体を動かすことはおろか、瞑想ホールを出ることも禁止されているのでひたすら耐えるしかなかった。
指示を無視して体操座りになり、時が過ぎるのを待つけれどそれでも痛みは引かないし辛くてイライラし始め涙が止まらない。
やっと1時間終わって休憩時間になるとあまりの痛みで呆然としていた。外に出て他の瞑想者をチラッと見てみると、皆平然としているが、一人泣きながらコースマネージャーと話をしている人がいた。
私と同じような体験をした人だろうか。気になるけれど、聖なる沈黙のため聞くことはできない。
それにしてもなぜみんな平然としているのか全く理解ができなかった。この次の瞑想時間が来るのが恐ろしく、もうやめたい、家に帰りたいと強く思った。

この瞑想がかなりのトラウマになり続ける自信がなかったため、アシスタントティーチャーに話をしてみることにした。話せるのは5分程度だけれど、頭の中で何度も質問することを確認してから指定時間に質問をしたら、どうも私は瞑想方法を間違って実践していたようで、正しい方法を何度も確認して次の瞑想時間実践してみたら全く痛みを感じることはなかった。
講話の中でもゴエンカ氏は口酸っぱく「テクニックを正しく、きちんと実践すること」と言っていたが、ゴエンカ氏の特徴ある訛と、一昔前の英語による指示を私はきちんと理解できていなかった。
また、指示を出されている時に他ごとを考えていて、きちんと指示を聞いていたなかった自分にも気づく。

これを機に積極的にアシスタントティーチャーに質問へ行くようになった。と言っても一日2度、5分程度しか機会はないのだが、毎度の瞑想をきちんと指示通りに実践しなければ遅れをとってしまい、合宿が終わってから何も習得できず無駄になってはいけないという焦りも感じていた。

5日目、6日目と時間は過ぎても、やはり1日に一回は色んな負の感情が溢れ出し、部屋や庭で延々と泣いた。
こんなに頑張っているのに、なぜこんな気持ちになるのだろうか。
どうして効果を感じないんだろうか。
この瞑想法はきっと私には合っていないんだ。
やっぱりやるべきじゃなかった。

そんな気持ちを拭きれずに夜の講話を聞いているとその夜ゴエンカ氏は「Faith」についての話をした。
Faithとは、信念、確信という意味だけれど、彼は「嫌悪や苛立ちでこの瞑想に疑いを持ってはならない。Faithを持って(信頼して)続けるのだ」と話し、私はドキッとした。
このビデオは何十年も前に撮影されたものなのに、なぜこの人は絶妙なタイミングで私の心に響く言葉を言うのだろう、と思った。
毎日、大抵午後の瞑想で気分がガックリと落ちて、夜の講話で持ち直し、また翌朝から気持ち新たに瞑想をするが、また午後で落ちるというパターンを繰り返していた。毎日毎日その日の気づきがあり、「ああ、これを気づくために合宿に参加したのか」と寝る間に思うのだけれど、次の日になると全く別の気づきがあり、この気づきは無常であるけれど一体どこへいくのだろう?と不思議に思いながらも8日目を迎える。

8日目になってもまだしっくりきておらず、ゴエンカ氏が言う「苦悩からの解放」や「汚濁の浄化」はさほど感じられない。午後にはまだ嫌悪の嵐に襲われ、部屋で静かに激しく泣き、自己嫌悪や劣等感に襲われた。
こんなに頑張っているのに。どうして私はこんなにも価値のない人間なんだろう。生きている価値なんてない。死んだ方がマシだ。とまで思っていた。

この日は流石に辛くて、合宿を断念する決意をした。自分の価値の低さがわかったからもうそれでいい。私には苦悩を手放すことは無理だから、このまま苦悩と共に生きていくしかないんだ、と自分で結果を出した。
そして、コースマネージャーに話をしに行こうと思った時、突然子供達の声が聞こえた。

お母さん、頑張ってー!
お母さん、大好きだよー!
お母さんの笑顔が見たいよー!

心がジーンと熱くなり、再び泣き始めた。子供達は私のことを待っている。最近、泣いていたり、辛い顔ばかりしてる私の心配をずっとしていて、私の笑顔が戻ってくることを切に願っているのに、自分は情けない。
これは自分のためだけにやっていることじゃない。子供達や私を支えてくれているたくさんの人のためでもあるんだ。あと数日で合宿が終わる。
あと少し、乗り切らなければ。

そう思い直し、再び瞑想ホールへ向かう。
その夜の講話を聞いてベッドに入ると、いよいよ合宿も大詰めだな、胸を張って帰れるな、と思って眠りについた。

翌日、また更なる試練に直面するとはつゆ知らず。


続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?