酔いどれ小説【ベロベロノベロ】alc.3%『交差点』
「交わらなさすぎじゃない?」
交差点を見下ろしながら、彼女はそうつぶやいた。
「こんなに人間がいて、こんなに人間同士ですれ違ってるのに、ほとんどの人間とは交わることがないんだよ?」
彼女がわざと「ニンゲン」と発音しているように聞こえる。
「ここですれ違ってることを、『交わっている』と思うべきなんじゃないかな」
僕はそう云い返した。
本当にそう思っているわけじゃなくて、あくまで彼女の言葉を踏まえて、それに呼応するような相槌を打ってみただけだ。
いつからか、そういう行いをするようになった。
人が二人あつまれば、片方が言い出した話に合わせる「合槌」がひとつ付き、三人になればふたつに増える。
それを心底つまらないと思いながらも、どういうわけか話を広げる方向に舵を切ってしまうのだ。
会話なんて、別に広がらなくたっていいのに。云うべきことがなければ何ひとつ声に出す必要はなく、ただ沈黙していればいいのに。
「交わらなさすぎなんだよ」
彼女が交差点を歩く人たちのことを云っているのか、それとも僕らの会話のことを云っているのか、それは曖昧なままにしておきたかった。
取り繕うように僕は云う。あえてつまらないことを。
「交差点、なのにね」
そして、それを悔やむ。その繰り返しだ。
気の利いたことなんか云わなくたっていいし、気が利かないこともわざわざ云おうとしなくていい。
何かを埋めるための合槌なんて、彼女は必要としていないのだ。
「でもね、私は今、君とすれ違ってるよ。
それが、私には、わかってる」
(交差点、なんだね)
そう思ったけど、そう思っただけで、声には出さずに済んだ。
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!