【まくら✖ざぶとん】⑥⑨『駆け込みそば屋』
しとしと梅雨が降る列島は蹴まりまつり一色で戦評を一言ちょっとで書くサ行に夢中になって忘れ去りそうになったまくらだが、そんなときこそ長らく忘れ去られていたそば屋のせがれが登場する一席をお届け。
そば屋のせがれが若旦那とあらば推さずして知られる家族経営、場所が下町なら出し巻き卵が十八番の女将は肝っ玉母ちゃん、近所にワケありイワクつきの若人がいりゃ面倒を見るべく迎え入れること山寺の如し。
不登校の引きこもり上等、ニートや失業者も屁の河童、適応の障害あろうが不適合で懲戒されてようがどんと来い、江戸が駆け込み寺なら平成にゃ人情が売りの駆け込みそば屋。情に篤けりゃおせっかいと相場が決まってるもんで、女将も大旦那も他人の抱える事情に干渉したがること谷町の如し。
かといってせっかく雇った従業員は繊細、過敏で神経質、ずけずけ土足で踏み込んだらむざむざ面倒を呼び込むこと請け合い、へそ曲げてひねくれちまえば雇用関係も職場環境もねじれこじれさせること風評の如し。
今にも首を突っ込んで口を挟みたい好奇心をどうにかおさえる克己心との間に板前挟みで首がまわらん辛抱たまらん、とにかく腫れ者にだけは触るわけにゃいかずおせっかいの矛先が自分たちにおべっかも使わない若旦那にトップダウンで落とされること雷土(いかづち)の如し。
やれ仕事がダメだ、それ結婚はマダか、と感情的に干渉されればまず喧嘩。ボトムアップは許されず経営方針で対立すりゃ家庭不和、下町育ちの頑固者同士じゃ付和雷同もなく同族嫌悪で険悪になりゃほら喧嘩、たまの好意も有難く受け取れず難癖つけてはいざ喧嘩、そんなことを繰り返してちゃ性根も腐って性懲りもなくまた喧嘩。一丁前に口応えして大旦那にそばじゃなく頬を打たれたらさあ若旦那の家出待ったなし。
駆け込みそば屋からせがれが家出すりゃ抜け出しそば屋、駆け込む者あれば抜け出す者あり、ひっくるめて抜け駆けそば屋ってことなら、看板料理はもちろん一文字変わって出し抜き卵。
や、けっこうなお手前でございましたこと。
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!