【まくら✖ざぶとん】①⓶⓶『泥棒市➌』
さてはて『忍者虚鉄』に続いて二話目以降はしばらく間が空いた泥坊主、盗った物を携えて裏路地の裏の裏へと歩いた先には〈泥棒の泥棒による泥棒のための〉闇市場、物々交換の〈わらしべ盗者〉たる泥棒市のおさらい。
泥棒から泥棒へと受け渡される〈天下の持ち回り物〉たるお宝、泥坊主が盗んだ〈バット〉と取り換えた〈銀の斧〉は〈自殺者直筆の遺書〉から〈使用済み豊胸器具〉になって〈兎の角〉へ。兎も角も話を先に進めるとそれから〈こけし型マトリョーシカ〉が〈指輪置き〉、そして〈畜雷機〉に。
絶え間なく当て所ない交換の末に目指している物は何なのか、という問いたる問題に達したところで閑話ならぬ本題休題、二つ前の一席は忍者界の仕来りについての噺だったが此度は泥棒市の仕組み。
闇市に集まるのは金銭的価値のある物だが泥棒市に集まるのは泥棒の心に触れた琴線的価値のある物、誰かの盗品を手にするためというよりは誰かに盗品を手放すための物々交換、当事者ならぬ盗事者同士の取引ではあれど単純な損得勘定よりも見本市の趣が強い〈盗品評会〉。
盗り出して手に入れたときに泥棒の仕事は完結しており、盗品を泥棒市で交換要品にする行為が示すのは泥棒としての矜持。真贋を見抜く審美眼にかなって交換に次ぐ交換を経れば好感触、交換回数が多いほどいい物だとは限らぬが、誰の心にも触れぬ物は早晩に交換がかなわなくなるもの。
誰かに手放した品物はたちまち「盗り人知らず」、盗ったのが自分だと後から名乗り出たところで証明する手段もなし。交換に次ぐ交換の過程でめぐりめぐって自分の元に舞い戻ってきても、顔色をぴくりとも変えぬポーカーフェースで取引に臨むのが一流泥棒の嗜み。泥棒が目立ちたがっては本末転倒、強まるほどに捕まるリスクが高まる虚栄心と自己顕示欲は禁物。
泥棒同士で盗品を持ち寄って持ち回っての共同保有、運や縁あって世にも珍妙な名品や迷品、貴重品や稀少品を一時的に所持すれば「負けるものか」、次なる盗り物への志を新たにするのが泥棒たちの心意気であり泥棒市の心得、認め合いの高め合いで連帯感と一体感を生む好循環こそ泥棒市の神髄。
泥棒たちが盗品を分け合い預け合い、互いの顔や名に泥を塗り合うことなく技を磨き合っての切磋琢磨、泥とつけばこそオチはきれいにシンプルに、これぞまさしく盗人にも仁義、てわけでお後がよろしくなったろうか?
《今回の釣果》
〈兎の角〉➡〈こけしマトリョーシカ〉➡〈指輪置き〉➡〈畜雷機〉
えー、「一字千金」という故事ことわざもありますが、【まくら✖ざぶとん】を〈①⓪⓪⓪文字前後の最も面白い読み物〉にするべく取り敢えず①⓪⓪⓪作を目指して積み上げていく所存、これぞ「千字千金」!以後、お見知りおきを!!