トルコのクラリネットを吹きたい。

トルコクラリネットを吹いてみたい、とここ1年ぐらいずっと思っている。

きっかけ

きっかけは一本の動画だった。

ギター・パーカッションとクラリネットのトリオで、クラリネットが明らかに「知っているやつと違う」。今までにどんなよくわからないフリージャズの音を聴いたときともちがう違和感を覚えて、この動画にめちゃくちゃはまった。初めて聴いたときは、耳慣れない音程の取り方をしている気がするので聞きづらかった(のちに微分音だと知ることになる…)が、クラリネットがこんなにゾーンにはいりこむような吹き方して調和する音楽あったんだ!と思っているうちにだんだん虜になっていった。

コピーをすることにして音を取りはじめ、「このグリッサンド無理では?」「装飾音付けてもこんな感じにはならなくない?」と謎が深まっていった。そして、何度も巻き戻しつつ動画をみているうちに、「運指が思っていたのと違うな…?」ということにやっと気づいた。キイを全部開けたり・全部押さえたりというわかりやすいタイミングの音が、見慣れたクラリネットの音とは違う高さのものが出ている。キイのシステムがクラシックで主流のベーム式ではなくアルバート式のものを使っているのは形をみたらわかったけれど、それにしても運指が変わりすぎではないか。

そんなことをぼんやり思いつつ、アラビア文字を使う地域でのクラリネット…と調べてみると、どうやらトルコではアルバート式のG管クラリネットがよく使われているらしいことを知り、成る程!!!!と合点がいった。はじめは気がつかなかったけれど、言われてみれば確かに見慣れたB管よりも長い気がする。アルバート式のG管を使えばこの浮遊感がありつつゾーンに入ったような切迫感をもったフレーズが出せる……きっとそんなに単純な話ではないのだろう(アルバート式はそもそも運指から相当難しいと聞く)。でも、このクラリネットの先に広がっている世界をぜひ垣間見たい!と思って、トルコクラリネットを吹きたくなってしまった。

トルコのクラリネットの魅力

トルコのクラリネット(ターキッシュ・クラリネット)に関する日本語情報は、クラリネット一般の情報の量と比較すると限りなく少ない、が、存在する。

この書籍の第5章「ベリーダンスと音楽 〜ジプシーをめぐる旅」では、トルコ音楽とクラリネットの関係性が描かれている。トルコの伝統的な音楽や軍楽隊の文化、ヨーロッパとの接点においてのジプシー文化の流入、そしてベリーダンス・踊ることそのものと深い関わり合いを説明することで、クラリネットがトルコ文化の中で切り離しがたい位置を築いていることが示される。

未知すぎるトルコクラリネットについての知らなかった情報を教えてくれる本であったことは勿論だが、私がトルコクラリネットに感じていた得体の知れない魅力を言語化してくれた!と感動する一節があった。

クラリネットの音色に関する形容のなかにある「野性的な響き」「怪しげな雰囲気」「喉の音」「暗くくすんだ音色」「開放的で艶っぽい音」などのすべてはジプシー音楽の形容詞としてもそのまま当てはまる気がする。それほどにジプシーとクラリネットとの間には親和性が高い。(関口義人『トルコ音楽の700年 オスマン帝国からイスタンブールの21世紀へ』2016、pp277-278)

この多様な性格を持った音色を、より各音域の性格を尖らせる形で開放しているから、トルコクラリネットはゾーンに入っているように聴こえるのだと思う。「低音域は粗く聞こえないように」「スロートトーンの音域はクラリーノ音域と馴染むように工夫して」「高音は開放的になりすぎないようにコントロールして」ということが求められるジャンルでは、クラリネットは広い音域をプレーンで伸びやかな音で演奏できる楽器として活躍する。しかしトルコのクラリネットは明らかに「それとは違う」異様な存在感を放っている。もちろんトルコクラリネットの演奏ががコントロールを求められないとは微塵も思えないが、まるで感情のうねりがコントロール下を外れてしまったような勢いと切迫感を一本で出せるところに惹かれている。

トルコクラリネットのプレイヤー

備忘的にトルコのクラリネットプレイヤーを紹介する。クラシック界ともジャズ界とも違うプレイヤーの立ち位置が不思議だ。日本でいうポップスのヴォーカルみたいな感じなのか?独特の世界観でMVを撮っていたりする。(3件目のHüsnü Şenlendirici - Millionerche、バックグラウンドも何もわからないのと規模がデカいのも相まって、考えるな、感じろ!というかんじ。)曲調はさまざまだが、烈しいなかにも物悲しさがあり、ささやくような静かさの中にも強い情念が渦巻いている、ように聴こえる気がする。

Mustafa Kandıralı(ムスタファ・カンドゥラル)

Hüsnü Şenlendirici(ヒュスニュ・シェレンディリジ)

Onur Çalışkan(オヌール・チャリスカン)

さいごに

トルコクラリネットについていろいろ知りたくなったときに日本語でアクセスできる情報がなさすぎて、リテラシーって超大事だな!!と思い知った。どんなクラリネットがよいんだろうか。






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