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息するクラリネット・ギターDUO - クラリネットジャズ紹介1

1回目はPhil Woods & Irio De PaulaのEncontro(on Jobim)

アルトサックス奏者としてのほうが有名なPhil Woodsのクラリネットと、ブラジル出身でイタリアで活動したIrio De Paulaのギターのデュオアルバムである。アントニオ・カルロス・ジョビンの曲から何曲かと、ジャズのスタンダードを収録。全曲を通してボサノヴァのリズムで揺蕩うような音楽だ。

このアルバムに会うまでは、Phil Woodsのアルトサックスといえばどちらかというと「切れ味の良い」 音色やフレージングの印象があった。しかしこのアルバムでは、クラリネットとボサノヴァという舞台が切れ味の良さを変質させている気がする。

フレーズはいつもよりポップだけれど、Irio De Paulaのギターからくるボサノヴァの空気のもつさみしさにはしっかり寄り添っている。サックスよりクラリネットのほうが息遣いがよく聞こえる楽器なのか?(そんなことないはず…)と思わんばかりの、ちょっと不安げだけど夢のある音色にどきどきしてしまう。

クラリネットは、クラシックでもジャズでも、完全にコントロールして作り込まれたふうに聞こえる音が必要とされることが多い楽器だと思う。(例えば、真っ直ぐに響くロングトーンとか、オールド・ジャズの伸びやかなヴィブラートとか。)言い換えると、生の息っぽさをなるべく出さないようなところに美学があるかのような。クラリネットの音に対してそんなイメージを持っていたので、初めてこのアルバムを聴いた時は、そんなところを聴いていいのか!という驚きがあった。息して音が出てる、明るく揃った時に思わず息を押し込む、フレーズの語尾を息遣いで放り投げて相手の話を促す、語りの途中でさみしさが顔を出して不安げに揺れる。そんなコミュニケーションを共有できる気分になるアルバムだ。

(途中でIrio De PaulaのソロでAna Luizaが入るのも好き。コードの気分を一つ一つ丁寧に味わうようなギターが素敵である。)


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