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明治初期の作家

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明治初期の作家です。坪内、二葉亭、鴎外、紅葉、露伴
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2022年4月の記事一覧

坪内逍遥(3) 坪内逍遥の文体変化2/2

 此記事は黄旭揮氏の論文をまとめたものである。

<『細君』に見る新たな文章作法>情景照応的な表現法の導入

『当世書生気質』が上梓された四年後、「国民之友」に刊行された『細君』は、”作家の外様形式文体”においても”作家の思想表出文体”においても、共に『当世書生気質』より一歩も二歩も前進した作品であり、まさに逍遥が小説家として歩んできた短い生涯の中で最も頂点に上り詰めた時期に創作された傑作であると

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坪内逍遥(2) 坪内逍遥の文体変化1/2

此記事は黄旭揮氏の論文をまとめたものである。

<はじめに> 文芸作品における文体分析は、通常二つのカテゴリーに大別できる。一つは作家の書体での表現手段に対しての文体分析であり、もう一つは、作家の内面性の伝達方法に対しての文体分析である。前者は、時代の隔たりを問わず、形式的な基準(和文体、漢文体、和漢混合体など)、又は、ジャンル・類型別により区分される文体(文語体や口語体、雅俗折衷体など)の公的な

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二葉亭四迷(5) 二葉亭四迷の翻訳

 東京商業学校を退学し、文学活動(『浮雲』など)に身を投じた二葉亭だったが、小説の執筆とほぼ並行してロシア文学の翻訳にも取り組んでいた。最初の企てとして、本人や坪内の回想からツルゲーネフの『父と子』をある程度訳し、『虚無党気質』という表題で刊行しようとしていたことが分かるが、何らかの事情で出版されていない。またゴーゴリの短編を翻訳して坪内に見せたこともわかっている。夫婦の会話の口調をめぐって、坪内

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二葉亭四迷(4) 「浮雲」の恋愛観

 前の記事では、『浮雲』を社会批判として観察する視点を持ったが、今回は、『浮雲』の語る恋愛観について見ていこうと思う。

 そもそも「恋愛」というものは西洋文学におけるロマンティックな愛の形を知って、近代日本の文学者たちが明治二十年代頃に「恋愛(ラブ)」という翻訳語を作り出すことによって新たに認知された新しい観念であった。従って二葉亭が描いた「恋愛」が新鮮なものであったという言い方は正しくない。む

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