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『福井にて』

旅行で得られる感動は、訪れたときの印象におおむね予想がつく有名な観光地を巡るときよりも、偶然訪れたマイナーな箇所で得られるときが多いように感じる。それは期待値を上回るから、そして多くの人々が気づいていない価値を自らが発見できたことに満足感を得られるからだと思う。

延伸したばかりの北陸新幹線を降りて福井市街地を散策していた私は、ハイキングがてら市街地に近接したなだらかな山に足を向けたところ、その途中で発見した瓦屋根の屋敷が立ち並ぶ石畳の坂道に心を奪われた。地元の中学生と思われる素朴な男子3人組が石畳の下り坂を背景にセルフタイマーで自身を撮影する微笑ましい様子のすぐそばでは、自宅の庭園の手入れをしていた中年女性と近所の住人と思われる高齢の男性が談笑していた。観光客のほとんどいない息をのむ瞬間を私が独占できる特権。何より私が感動したのは、そんな文化的な景観には確実に人々の暮らしがあるということ。レプリカではない本物の瞬間に巡り逢えたとき、私は思わずため息が出た。

写真は夕食で訪れた寿司店での一枚。福井駅からやや離れた年季のある狭い店内には、お寿司を握る推定70代の男性大将と補助として働く推定20代の女性が忙しそうにお店を切り盛りしていた。美味しいお寿司を良心的な価格で提供し長年地元の人々から愛されてきたのだろうと想像しつつ、いただいたカニのお寿司が特に絶品だった。

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