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『写し鏡』

4月11日木曜日。快晴。やや涼しげな朝。広尾のジムで大臀筋とハムストリングスのトレーニングを実施した私は、悲鳴を上げる下半身に最後の追い込みをかけるように天現寺交差点に架かる歩道橋の上り階段を一段飛ばしで駆け上がり、前方に広がる明治通りの渋谷方面の景色を眺めた。やや旬が過ぎて葉桜が始まった桜並木の様子を確認した私は、時の経過の速さにやや焦りを感じつつ、桜がその時々に見せる表情の豊かさについてふと考えた。

新生活を始める人に対して見せる桜の表情は、今後の新たな出会いに対する期待と不安を含みつつおおむね見る側を肯定してくれるように感じられるし、気分が落ち込んで物事への意欲が減退しているときに見せる桜は、表面的で白々しく感じられる。一方でキャリアや人間関係に悩んで哲学的なことを考え始めたときに見せる桜は、梶井基次郎の『櫻の樹の下には』に記されているように、華やかさの裏側にあるグロテスクさ感じさせるように思える。

天現寺交差点の歩道橋から葉桜を眺めていた私は、本日の桜が見せた表情を通じて今の自分が置かれている心理的状況を確認しつつ、勤務地のある恵比寿に向けて下り坂の階段に足を踏み入れるのであった。

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