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モロッコカフェ事情

 暑い!ここフェズは毎日40度を超え、鼻で息をすると鼻の穴がひりひりする。
このくらい暑くなると、人間を始めすべての生物が日中は活動を停止する。
犬や猫は日陰のコンクリートにべったりと横になってぴくりとも動かなくなる。
人間は、特に女の人たちはあまり外に出て来ない。
男達はというと、カフェである。
 カフェのテントの下にできる日影はおやじ達の重要な社交場である。
もっとも、暑さに関係なくカフェはいつもおやじ達で賑わっているのだが..。
街にあるカフェの数といったら日本の某コーヒーチェーンの比ではなく、そのどれもがおやじ達で一杯だ。
新市街のカフェなどは、軒からせり出したワインレッドの大きなテントや、きれいな椅子とテーブルが歩道に並んでいる姿だけ見ると、パリのカフェとそれほど違わない。サングラスをかけたパリジェンヌがカフェ・オレを飲んでいても何もおかしくない感じである。
 しかし、モロッコのカフェがパリのそれと大きく違うのは、第一に、女の人が全くいないことである。
どの店を見てもいるのはおやじ、おやじ、おやじ。
あるいは若い人も居るのかもしれないが、モロッコ人男性はある年齢を過ぎると突然おやじ化してしまうので、基本的にカフェに来るような年齢の男は皆おやじということになる。
 第二に、通りに背を向けて座っている客が居ないということだ。
その理由がなぜかは知らないが、ひげ面のおやじ達は十字軍の攻撃から砦を守るイスラム兵士のように店に背を向け肩を並べて通りの方を向いて座っている。
その姿は壮観ですらある。あるいは彼らの遺伝子に組み込まれた戦いに色塗られたアラブの歴史がそうさせているのかもしれない。
 まぁ、それが本当かはともかく、モロッコのカフェがおやじ帝国の砦であることは間違いない。
おやじ達はここで天気の話から、政治、昨日のサッカーの試合やかみさんの悪口などをしゃべっているのだ。
かつて日本の居酒屋がそうであったように・・・。
日本の居酒屋は今や女性客に侵略され、かつてのおやじ帝国の栄華を偲ばせるものはほとんどない。
最近フェズにもマクドナルドができ、モロッコも近年急速にヨーロッパナイズされている。
十年前に来た時と比べると、フラー(頭にかぶる布)をかぶっている女性が少なくなった。
若い女の子達の服装は、ここがイスラム圏だということを忘れさせるくらい露出度が高くヨーロッパナイズされている。
カフェのおやじ達が通りを行く女の子達に鼻の下を長くしている内におやじ帝国の衰退は始まっているのかもしれない。

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