偏食っ子の『糧』となるゴハン

「私の朝ごはん、今日はコレよ、コレ!」
ニコニコと小ぶりのリンゴを頬張る彼女は、さも当たり前に「学校」で、「自分の好きな食べ物」を朝ごはんに選んで食べていた。私が日本人で趣味がマンガやアニメ等だと知ると否や、セーラームーンの切り抜きファイルを見せて同志扱いしてくれた彼女は、その日も実に機嫌良さそうにしていた。

「それひとつで足りる?」
『うん、リンゴ食べたら元気出るし大丈夫』
「えっ、芯まで食べるの?硬くない?」
『ヘッヘッ、硬いけどこの芯が美味しいから食べちゃうんだよ〜』
一食のバランスが偏っていて、しかも硬い芯まで食べるものだから大丈夫かと心配する私に対して、この返し。でも彼女は、堅実にこのリンゴをその時の心身を養う糧として楽しんでいた。
そしてこの会話が、発達由来であろう偏食味覚を持つ息子に対応する今、15年以上経って生きているのだから、実に不思議なのである。
       
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これは2000年代初期のカナダ東部の高校の朝ご飯食堂での話である。利用料は無料で、コーヒーやマフィン、果物など色々なメニューが学食に取り揃えられている。
誰も強要してくることはなく、「あらおはよう、良かったらおひとついかが?」と言った具合でスタッフさんが声をかけてくれる。
すると思わずどれか一つ、食べてみようかな。実は家でパンを食べてきちゃったけど…と思ってしまう、そんな雰囲気であった。

私の通っていた高校は毎日では無かったものの、それなりの頻度で開催されていた。その為開催日には先生も生徒も関係なく、授業開始までのんびり食を楽しめる雰囲気がとても居心地が良かった。

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この経験があるからなのか、未診断とはいえ日頃より偏食味覚を前面に押し出して食を楽しんでいる息子を連れての乳幼児健診ないし歯科健診は苦行であった。特にこの手の会でよくある、保健師さんや歯科衛生士さんの圧が強めの栄養講座がイマイチ心に響かなかった。

食事はこうしなければならない、ジュースは砂糖扱いだからやめなさい等の口調で繰り広げられる「正しい食事」をさせることを其々の家庭の主な炊事担当者に伝え、仮に諸般の事情で実践困難である旨を正直に申告すれば、お説教の嵐である。
学問に則った正しい食事方針とはいえ、彼女らの指導にそのまま従ってしまうと、口周りの発達が遅い我が子は肝心の栄養が取れない。頑迷な部分があるので、恐らく体調を崩すところまでいってしまうだろうとも思う。

そして炊事担当者である私も、あまりにも食べてくれない徒労でかなり病んでしまうに違いない。
だから、取り敢えず息子には目下のところ市販品をフル活用してでも何とか楽しく食べて食材に慣れてもらう。
とりあえず騙し騙しでも、機嫌良く食材を口にしておいた経験が、もしかすると彼の後の生きていく上での糧になるかもしれないと思っているから。
-そう、カナダのあの彼女のように。

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今日も今日とて、息子にバランス良く栄養摂取をしてもらうことは難しい。味覚のジャッジがあまりにも厳しいので、我が家では海原雄山先生と迄渾名されるほどである。
それこそ今朝のほろ甘いミルクパンなんて、ジャムを塗ったところだけ丁寧ひ食べて、他は何かが気に食わなかったのか無視であえなく母の胃袋に収まってしまった。

しかしながら、その彼の中での許容範囲内にある栄養ある食品を後で少しづつ、機嫌をとりながら召し上がって頂いた。
本日昼の時点では市販のトマトゼリー、母製の鰹節おにぎり、フライドポテトである。
逆立ちしてもトマトをこんなに美味しく、果物デザート状態に仕立てるなど素人母には出来ない。

鰹節おにぎりは苦肉の策である。あれだけ食べた離乳食も今や夢の跡、息子にとっての動物性タンパク質は牛乳とヨーグルト、鰹節、特定の銘柄のカレー、サバと鶏肉のそぼろ、枝豆と納豆。偶にイケアのミートボール、牛丼とチャーハンの具材。実にこんなところである。彼のお腹の空き具合を考慮した上でローテーションさせている。

フライドポテトは有能だ。
成長や活動に必要なエネルギー、カリウムや繊維までとれる。食進みが悪い時もこれならわりと食べてくれる。だがカリカリ食感でないと返品してくるあたりは、炊事担当者として苦々しかったりする。
けどマックでも、うちで揚げるハインツでも当たり判定が大きくて、思考停止した時は特に母がめっっっちゃ助かる。ありがとう。各社お客様相談室にお礼状を出したいレベルなんやで。

とまあ、今日の昼時点ではこんな感じである。
これが連綿と毎日続き、丸一日かけてバランスをとっている。基本的に息子自身が口内で不快感を抱かない、好きな食べ物ばかりなのでこうなるのだが、まあ身体は健康そのものだし、何なら成長曲線を突き抜けて育っているので不思議ないものだ。

恐らく専門職の方々がご覧になったら、全力でお叱りを受けるに違いない。もちろんそのご意見もごもっともなので、この好物メニューの隅っこで、半ばお供えものの如くテーブルに鎮座しているお味噌汁を、ぺろっとなめてみるなどのトレーニングはしているところではあるけれど。

だがしかし、取り敢えず機嫌良く、楽しくのびのびしている食事の方がより心には響くし、子どもにとってはまるごと成長の糧となるのかもしれない。
そうなるように、今日も偏食っ子の糧となる食事を考えていこうと思う。

【写真】
上:息子御用達のトマトゼリー。スープ代わりに食べてもらう事が多い。大人にも大好評の一品。

下:子どもの日のプレゼントに牛乳500mlをプレゼントされて、大喜びで飲んでいる息子氏

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